皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
目次
はじめに
本日のテーマは、「開業医がMS法人を作って資産形成する理由」です。開業医の先生でそれなりの規模の病院やクリニックを運営されていると、既にMS法人を作られているケースや作りたいと考えるケースが多いと思います。今回は、開業医の先生方がなぜMS法人を作るのか、具体的な活用のイメージ、MS法人に関する基本的な内容をお伝えします。
MS法人の活用イメージ
MS法人の活用のイメージを見ていただきましょう。
左側に医療法人があり、ご本人様が理事長をされている前提です。右側にあるMS法人は、株式会社や合同会社の形で医療法人とは別に作られています。代表者は、基本的にこちらの医療法人に関わっていない方がなることになっており、お子様が代表者になることが多いです。こちらのイメージでは、ご長女様が代表と株主になっているMS法人という前提で考えたいと思います。
MS法人の事業内容は右側をご覧ください。例えば、医療法人で使う土地や建物をMS法人が保有して、医療法人に賃貸を行います。それ以外には、医療法人の人材や社員を一時的にMS法人で雇い入れ、医療法人に派遣したり、医療用品・材料・機器などを仕入れたり、在庫管理したり、医療法人に販売やリースを行ったりします。また、医療法人に入院する設備がある場合、給食業務を受託したり、リネンサービスを行ったり、医療事務に関すること(レセプト請求・会計業務)を代行したりします。このようなことをMS法人で行うことが多いです。要は、医療法人で行う医療行為以外の業務、医療法人で使う資産(機器など)をMS法人が保有し、医療行為以外のあらゆる役務を医療法人に提供することによって、医療法人から賃料・業務委託料をMS法人が受け取り、それを会社の売上げとして成り立たせるのがMS法人になります。
この中でポイントになるのは、MS法人の株主です。このイラストの場合、株主はご長女様です。ご長女様が株主になっていることで、医療法人から賃料や業務委託料を毎年受け取るのですが、この報酬はお子様名義の資産として増加していきます。MS法人名義ということは、株主であるお子様名義で資産が増加していくことと同義です。これによって医療法人からMS法人への資産移転ができ、尚且つ、お子様名義で資産が増えていくので、資産承継対策にもなっているのがMS法人の基本的なイメージです。これを行うことがMS法人のメリットになります。
MS法人開設10年後のイメージ
さらに具体的なイメージを持っていただくために数字を使って見ていきましょう。MS法人を開設し、実際に賃料・業務委託料をMS法人に出した場合、10年後の数字のイメージがこちらです。
形は先ほどと同じですが、それぞれに数字を入れています。MS法人を作った当初は、賃料や業務委託料を多額に計上するのは難しいと思いますが、元々それなりの水準の報酬が出せると仮定し、平均の数字を前提として考えていきます。MS法人は資産・役務を医療法人に提供し、賃料・業務委託料を年間3,000万円受け取ったとします。MS法人が毎年3,000万円を受け取ることによって、10年後に医療法人・MS法人がどのようなバランスシートになっているのか見ていきましょう。数字はあくまでも過程ですのでご留意いただければと思います。
医療法人のバランスシートは左側です。資産・負債があって、右下が純資産です。資産は現預金が7億円、その下に(▲2億円)と記載されているのは、元々医療法人がMS法人に業務委託せずに自社で利益等を吸収した場合に増えた現預金を表しています。例えば、3,000万円医療法人に利益があると、法人税は概ね30%です。それを除くと純利益は約2,000万円になります。医療法人がMS法人を作らずに業務委託の利益を留めた場合は、医療法人の預金が2億円増えたことになりますので、MS法人に流すことによって2億円減ったことになります。したがって、9億円が7億円になって2億円減っていると見ていただければと思います。同じように、右下の純資産の繰越利益も現状6億円になっています。これもMS法人に利益移転することで2億円減り6億円になっているのです。
MS法人のバランスシートは右側です。純資産が右側で、繰越利益が2億円になっています。賃料・業務委託料をMS法人は毎年3,000万円受け取っているので、3,000万円×税金30%(費用がほとんどない場合)だとすると、毎年の純利益は2,000万円です。こちらのMS法人を10年間運営した場合、2億円の繰越利益が蓄積されるわけです。
次に、約2億円の資産の内訳が左側にあります。2億円を現預金で貯めておく考えもできますが、多くの場合は、現預金だけでなくいろいろな資産に分散して投資しています。こちらのイラストの場合、現預金を2,000万円だけ残し、残りの1億8,000万円は株式・債券・REIT・金に分散投資しています。このように効率的に資産運用しているケースが多いです。
医療法人で、何もしなければ10年間で2億円の利益が蓄積されますが、MS法人を作ることで、MS法人に税引後の利益が2億円残ります。さらに、2億円の利益が株主であるお子様名義になることによって、医療法人からMS法人への利益移転ができ、尚且つ、利益がご長女様名義になっているので、資産承継対策にもなっているのが、MS法人の効果でありメリットであると思います。
ポイント
今回のテーマの「開業医がMS法人を作って資産形成する理由」をまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)MS法人の本質は利益移転と資産承継対策
MS法人の本質的な価値は、医療法人からMS法人への利益移転と、お子様がMS法人の株主になることによる資産承継対策であると考えます。
ポイント2)医療法人に利益を蓄積しても精算手段が限られる
医療法人がMS法人を作らずに利益を蓄積したとしても、実は清算手段が限られています。持分がある場合はM&A(売却)という手法もありますが、医療法人は基本的に持分がない形になっているので、退職金で医療法人から資産を受け取るという形しか考えられません。MS法人であれば、そういった清算をしなくても、そのまま一族の資産管理会社として存続させることも可能です。MS法人の場合、清算することもできますが、そもそも清算しなくてもよいことになっています。医療法人の場合はそうはいきません。資産管理会社として活かすこともできるという意味で、MS法人に利益移転していくことが非常に有効であると思います。
ポイント3)医療法人と異なりMS法人は資産運用の対象が自由
医療法人に利益を蓄積して余剰資金として残したとしても、医療法人の資産運用はかなり制限がかかっているので、思い通りにいかないことが多いです。MS法人は株式会社や合同会社で、資産管理会社と同じような扱いになりますので、資産運用の対象が自由にできます。株・債券・ヘッジファンド・不動産など、どのようなものに投資をしても良いわけです。ですから、運用対象が非常に幅広く、余剰資金を有効に運用できるのが医療法人との大きな違いであり、メリットであると言えます。
ポイント4)お子様名義で資産が増加し、時間をかければ相続効果は大きい
MS法人の場合は、お子様名義で資産が増加し続けますので、時間をかけられるのであれば相続効果は大です。先ほどのイラストの場合、医療法人からMS法人に業務委託報酬を3,000万円出していますが、純利益ベースで考えると2,000万円になります。2,000万円×10年=2億円、20年の場合は4億円になります。仮に、個人で2,000万円の生前贈与をすると、35%の700万円が贈与税になりますので、2,000万円を移すことは簡単ではありません。個人ベースの贈与で考えると割に合わないわけです。これを、医療法人とMS法人という形で上手く利益移転していくことができるのであれば、相続効果は圧倒的に高いと言えると思います。
本日は「開業医がMS法人を作って資産形成する理由」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中