皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
目次
はじめに
本日のテーマは、「米ドル債券投資で為替のタイミングを気にしなくていい理由」です。アメリカの利回りが高いため、米ドル債に投資したいという方が増えていますが、一方で、ここ2年余りの間に急速に米ドル高・円安になったことが気になり、米ドル債投資に二の足を踏んでいる方がものすごく多くいらっしゃいます。「為替が気になる」「米ドル高・円安すぎる」「もっとドルが安くて円高の時に米ドル債に投資したい」と考えている方が非常に多い状況です。最近はこのようなご質問をよくいただきますので、それにお答えする内容にできればと思います。
為替のタイミングを気にしてもしょうがない、というのが私なりの結論です。その理由を解説します。
米ドル/円レートと米ドル長期社債ETF価格(過去2年)
為替のタイミングを気にしなくていい理由の解となる2つのチャートを1つにまとめ、同じ時系列にしたものがこちらです。
青色のチャートは米ドル/円レートで、数値は右側です。オレンジ色のチャートは米ドル長期社債ETF価格の推移で、数値は左側にあります。いずれも過去2年のものです。これをほぼ同じスタート地点に並べて比較しています。
皆さんご存知かと思いますが、米ドル/円レートは過去2年でスタート時が110円でした。そこからアメリカのインフレが高まり金利が上がるに伴って、米ドル/円はドル高・円安に推移しているのが分かります。2年前のスタートが110円でしたが、今では右上のように145円程度になっています。一方で、米ドル社債のETFの価格は、米ドル債券の価格を反映した指数を見ると、ものすごく下がっているのが確認できます。
米ドル/円がドル高・円安にいくのと同程度、逆に下がっています。このチャートをよく見ていただくと分かるように、米ドル/円がドル高・円安にいく時は、ドルの社債も価格が下がり、逆にドルが円高にいく時はこの社債の価格は上がっているわけです。ですから、これは逆相関になっていると言えます。米ドル/円レートとドル建ての社債の価格は逆相関になっていますので、ドル円がドル高・円安にいく時は社債の価格が下がり、逆に円高にいき、ドルが下がり安くなっている時は社債の価格が上がるというような逆の動きをするということになっています。直近の昨日の米ドル/円の数値を見ると、過去2年の間に青色の米ドル/円のチャートはプラス30%ドル高・円安になっています。社債のETF価格はマイナス31%下落しています。
2年前にドル建てETFの債券に投資した方は、ドル高・円安によってすごく儲けているように思われている方が多いと思いますが、実はそうではありません。社債のETF価格はマイナス31%になっていますから、ドル/円のプラスを打ち消す、つまり、プラスマイナスゼロになるくらい下がっているわけです。このことから、為替のプラス評価と債券の価格の下落を総合すると、ほとんど増えていないことが分かります。
今はドル高・円安になって為替はプラスになっていますが、過去に投資した方は為替、ドル/円は割安に投資できました。つまり、どのタイミングで米ドル社債に投資したとしても、結局、そのような時は社債の価格は高いことが多いので、その時に投資したとしてもドル高・円安になったとしても、債券の価格は下落していますので、トントンになっているわけです。米ドル/円は一番右側のように確かにドル高・円安にはなっていますが、債券の価格はものすごく割安になっているので、今投資する方は為替的に不利ではありますが、債券価格的には割安な状態、有利な状態で投資することができます。不利な状態で投資しているということでは全くないわけです。
この2つのチャートを見ていただくと分かるように、かなり逆相関に動いていますので、仮に今の状態で米ドル建ての社債に投資したとして、ここからドル高・円安にいって為替がプラスになったとしても、その時は逆に社債の価格は下落しますので、結局トントンになります。今、ドル建て社債に投資して、逆にドル安・円高になったとして、為替がマイナスになったとしても、社債の価格は上昇している可能性が高いわけです。ですから、結局、ドル建ての債券に投資する方にとっては、為替のタイミングをいくら気にしたとしても、債券の価格で調整されて、最終的にはプラスマイナスゼロになることが多いので、これが米ドル債券投資で為替のタイミングを気にしなくていい理由になるわけです。
ポイント
今回の「米ドル債券投資で為替のタイミングを気にしなくていい理由」についてまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)米ドル/円レートと米ドル債券の価格は逆相関
先ほどのチャートでお伝えしたように、米ドル/円レートと米ドル債券の価格は逆相関になっているというのが全てのポイントになります。これが、今回のタイミングを気にしなくていいことの解です。結局、今投資したとしても、為替がドル高になったとしても、ドル安になったとしても、結局、債券価格で調整されます。ドル高・円安の時に投資している時は米ドル債券の価格が安くなり、逆にドル安・円高になっている時は米ドル債券の価格は高くなっていますので、どのタイミングで投資したとしてもトレードオフになっているわけです。これが為替のタイミングを気にしなくていい主な理由ではないかと思います。
ポイント2)逆相関が働く前提は期間が10年以上の長期債
期間が長い債券=長期債と言いますが、ドル円と債券価格の逆相関が働く前提としては、この米ドル債券でお金が返ってくるまでの期間が10年以上の長期債が前提の話になりますので、ご留意いただければと思います。先ほどのETFも、米ドル建ての会社が発行している社債で、期間が10年以上の債券だけに投資しているというルールで運用されていますので、長期債でないと為替のレートと債券価格の連動性があまりないと言えます。ですから、為替をタイミングを気にせずに債券価格で調整される形で米ドル債券に投資されたい方に関しては、期間が短い債券に投資しては駄目なわけです。期間が長い債券に投資するのであれば、為替のタイミングはあまり気にしなくていいということになります。
ポイント3)アメリカの金利以外での為替変動が不確定要因
先ほどの逆相関の話や、米ドル/円、債券価格の動きの話は、全て、アメリカの金利の動きによってドル/円が動いたり債券価格が動いたりする時を想定してお話ししています。過去においては、基本的にはアメリカの金利の動きによって為替が動くことが多く、先ほどのチャートで見ていただいたような過去2年は、そのように動いています。アメリカの金利が上がることによって債券の価格は下落し、ドル/円はドル高・円安になり、債券価格とドル/円の価格も連動し、逆相関に動いていました。これは、アメリカ金利が要因でドル/円と債券価格が動いていたわけです。
ポイント4)インカム増加や中長期定期な円安対策
ドル/円レートが1円~2円ドル安・円高になったり、ドル高・円安になったりしますが、それはごく些細なことであると個人的には思っています。本当に大事なことは、本来の資産運用の目的である、米ドル債券に投資することでインカムゲインを増やし、ご自身の人生を豊かにするためにそのインカムゲインを使っていく、そのために米ドル債券に投資するわけです。あるいは、資産の中に占める円の割合が大きすぎるので、中長期的な円安対策をしたい、外貨の割合を増やしたいなどの大義のために資産運用があって、米ドル債券投資があるのです。為替の1円や2円のレートの動きを気にして投資しないことは、非常にもったいないと思います。常に大事なのは大義であり、資産運用の大きな目的ではないでしょうか。そういった点からも、あまり為替の細かい動きは気にする必要はないと考えます。
本日は「米ドル債券投資で為替のタイミングを気にしなくていい理由」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中