皆さん、こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。会社オーナーの方が資産を成長させるために必要な情報をお届けします。
はじめに
本日のテーマは、「上場会社オーナーと会社売却富裕層が『資産管理会社』を作る理由」です。
私もこの仕事を約19年やっていますが、上場会社オーナーや会社売却富裕層の方がお客様の中心にいらっしゃいます。今回のテーマである❝資産管理会社❞を持っていない方は、おそらく一人もいらっしゃいません。皆さん一つは持っています。多く持っている方では4つ程度の方もいらっしゃいます。❝資産管理会社❞というだけあって、「資産を管理するために存在している会社」ということになります。
ほぼ100%の方が作っている資産管理会社を、なぜ上場会社オーナーや会社売却富裕層の方が作っているのか、理由やメリット・デメリットなどを分かりやすくお伝えできればと思っております。
資産管理会社の王道パターン
資産管理会社のイメージを持っていただくために、「資産管理会社の王道パターン」、どういう形で運営されることが多いのかをご説明します。
下記の図は資産管理会社のバランスシートで、左の青い部分が資産、右の赤い部分が借入、緑の部分が資本です。
いろいろな形態がありますが、最近はこのような形が多いと思います。相続対策の意味合いもあって、お子様が資本を持っているケースが多いです。出資して株式の大部分を持っています。
ただし、資本金が小さい会社ですので、ご本人が4億円の貸付をして、銀行からも6億円の不動産融資を受け、いろいろな資産に投資しています。イラストの例では、先進国債券に3億円、国内不動産には借入を使って7億円投資し、資産を成長させていく、もしくはインカムゲインを生み出す仕組みを作って、この資産管理会社に定期的に収入が入り、純資産を増やしていきます。このようなことをするのが資産管理会社の役割です。
資産管理会社を作る理由
なぜ、皆さんがこの資産管理会社を作るのかをご説明します。2つの優位性があることによって作っていると考えられます。2つの優位性のうち、どちらかを目的とする、もしくはどちらも目的として資産管理会社を作る方が多いです。その2つの優位性についてお話しします。
税務効率面の優位性
1つ目は「税務効率面の優位性」です。
この資産管理会社は、個人で資産を運用する場合と比較して、税務的に優れている面が多いです。優れている面は主に4つあります。
所得分散効果
例えば、個人で資産運用して、毎年2,000万円のインカムゲイン(定期収入)が入っている場合、個人で受け取ると、個人に2,000万円に対する課税があって完結してしまいます。これを資産管理会社で運用すると、法人の収入になります。その法人の収入を役員になっているご家族の方に役員報酬として配分することができるわけです。当然、配当なども出せます。個人の場合、2,000万円の収入はすべて個人に帰属しますが、法人の場合は、法人の収入として2,000万円が入ってきて、例えば、奥様に500万円、ご本人に1,000万円、法人に残りの500万円というように分散することができるのです。
分散する理由は、基本的に個人も法人も税金面でいうと、所得の絶対額は少なければ少ないほど税率が低いからです。ですから、所得は分散すればするほど良いわけです。一人に2,000万円ではなく、例えば500万円×4人の方が総合的な税コストは安くなります。このように、所得分散効果を発揮できるのが資産管理会社(法人)になりますので、この効果を期待して、資産管理会社を作っている方が多くいらっしゃるのです。
社宅・交際費・車両・旅費などの法人独自の経費
法人すべてに当てはまるのですが、「法人独自の経費」があります。個人ではどうしても切れない、法人だけに許された経費があります。会社名義で自宅を借りる社宅、年間800万円まで認められている交際費、車を経費化できる車両費、事業目的の旅費(規程を定めるのが原則)などです。このような法人独自の経費をそれなりに使用することができるオーナーであれば、結構メリットがあります。これも優れている点です。
幅広い損益通算
個人の場合、所得の分類がかなり細かく、例えば、金融や不動産などに投資をして、何かで損が出たとします。しかし、他の利益と損益通算ができないことが多いです。金融の中でも株や債券などは、上場している株の中では損益通算できますが、未上場の株や債券は損益通算ができません。このように謎のルールが個人の場合はあります。一方で、法人の場合はどんぶり勘定です。どのような種類の利益でも損失でも、一気に合算するというのが法人の考え方です。この幅広い損益通算は法人の税務効率面のメリットの一つではないかと思います。
ここにはありませんが、万が一損失が出てしまったときの繰り越しも、個人の場合は約3年ですが、法人の場合は10年間繰り越しできるので、メリットは大きいです。万が一投資で失敗して大きな損失が出たときに、10年繰り越しができれば、概ね使い切れるわけです。
最高税率
所得税に関しては、個人の場合、住民税を合わせて55%ですが、法人の場合は実効税率ベースで33%です。絶対的な最高税率も個人よりも法人の方が低いので、税務効率面で優位な点ではないかと思います。
資産承継面の優位性
資産承継を考えたときに有利になる点が資産管理会社にあるというのが2つ目の優位性です。優位性は4つあります。
実物不動産
実物不動産を個人で持っていると、面倒なことが多いです。亡くなったときに登記を変更しなければならない、相続税の計算をしなければならない、生前贈与の手続きが面倒、などです。ところが、資産管理会社であれば、資産管理会社に紐づく資産は、資産管理会社の株式になる、ということです。ですから、この株式を相続人に渡してしまえば、その不動産を実質的に相続したことになります。資産管理会社の場合、相続や生前贈与がもの凄くやりやすくなるのです。実物不動産や相続の手続きを経験された方であればお分かりになると思いますが、圧倒的に資産管理会社の方が楽です。
不動産は本当に大変で、相続争いの元になる場合もあります。このような点を勘案すると、資産管理会社に持たせる方が手続き上簡便であるため、そのような優位性が一つあるといえます。
投資成長分が承継済みとなる
最初のイラストにありましたが、お子様を株主にするというオプションがあります。先ほどの例は、債券に3億円、不動産に7億円、トータルで10億円資産運用していましたが、その10億円の資産が増えていくとすると、資産が増えた分はお子様名義(お子様が株主の会社)で資産が増えていくわけです。資産が増えた分は承継済み資産になるので、中長期的に考えると、資産承継効果(相続税を減らす効果)が大きくなります。
ですから、年齢が若い富裕層の方や上場会社オーナー、会社売却富裕層の方は、お子様を株主にして資本の薄い資産管理会社を作り、資産運用をして純資産を増やし、中長期的に資産承継効果を得る方がかなり多いのでしょう。
資産承継プランが明確になる
1つ目とも共通しますが、資産承継プランが明確になります。例えば、お子様が2人で、ご本人が資産をたくさん持っていて、いろいろな資産に投資している場合、誰が何を相続するかなど相続争いの元になりやすいです。
例えば、管理会社Aは長男、管理会社Bは次男、管理会社Cは奥様、などお子様の数だけ資産管理会社を作ることで、資産承継プランが非常に明確になりますので、相続争いを回避することに一役買うことが多いわけです。もちろん会社を作るごとに運営コストもかかるので、それなりに資産がある方限定ではあります。そのように資産承継プランが明確になるので、活用される富裕層の方はそれなりに多いのではないかと思います。
無議決権株式
最後はオプションなのですが、最初のイラストのように、お子様に会社の株をすべてあげてしまうと、お子様の自由にされてしまうのではないか、お子様がご自身のために使うようになって、若い方の場合、生活が狂ってしまう、働くモチベーションが無くなってしまうのではないかと心配される方が結構いらっしゃいます。しかし、心配する必要はありません。お子様に渡す株は基本的に「無議決権株式」です。一株だけ議決権株式にして、残りの株はすべて無議決権株式にできます。
一つの議決権株式はご本人が持ち、残りの無議決権株式は全部お子様に渡すことにすれば、財産的にはお子様の会社ですが、会社のすべての決定権はご本人が持っている状態になります。資産管理会社の株を財産的にお子様に渡したからといって、管理会社をすべて自由にされるわけではありません。お子様に権限を与えずに生前贈与をしていって、税務的には有効に運営していくことができます。
ポイント
今回の「上場会社オーナーと会社売却富裕層が『資産管理会社』を作る理由」についてまとめます。ポイントは4つです。
ポイント1)1つは自由にできる法人があった方が利便性が高い
上場会社オーナーも会社売却富裕層の方も、デフォルトでご自身が自由にできる会社がないというのが共通点ではないかと思います。上場会社オーナーは「公器の器」ですので、会社を自由にできません。
会社売却富裕層の方は、会社を売却しているので、基本的には会社を持っていないケースが多いです。やはり法人は一つあった方がいろいろと自由が効いて、圧倒的に便利です。先ほどお伝えした優位性の効果を得るためには絶対必要ですし、それなりに資産があっていろいろと自由にできる柔軟性がある方にとっては、法人が一つある方が圧倒的に利便性が高まりますので、法人を作る方が多いのではないかと思います。
ポイント2)税務効率で個人より有利な可能性が高い
税務効率面で有利なところです。基本的に個人よりも法人の方が税率が低い面や、法人独自の経費を使える点、損益通算の幅が広い点、最高税率や所得が分散できる点などで、個人よりも資産管理会社の方が有利なので、資産管理会社を運営する方が多いわけです。ただし、一点においては個人の方が有利で、それは「金融資産の運用」です。
金融資産の利益に関する課税に関しては、個人は20%ですが、法人の場合、最高税率は33%になりますので、法人の方が税率が高いわけです。しかし、法人は上がった利益に対してそのまま税金がかかるわけではなく、発生した経費等を引いて最終的に残った利益に対して課税されるので、最終的には、総合的な差し引きで考えられることが多いと思います。単純に、税率が個人は20%、法人は33%だから個人の方が良いという考え方ではないと思います。そのまま個人でシンプルに運用した方がいいこともありますが、それを判断するのは、いろいろな要因や状況を分析して判断する必要があると思います。
ポイント3)個人ではできない資産承継プランが可能となる
資産承継面の優位性です。個人ではどうしてもできない資産承継プランが、資産管理会社を使うとできるようになりますので、こういったことを上場会社オーナーや会社売却富裕層の方は必要とされています。やはり個人だけではなかなか満足のいく資産承継対策ができないわけです。ですから、そういった方々は資産承継面の理由で資産管理会社を作るという結論に至る方が多いのではないかと思います。
ポイント4)税務効率×資産承継の理由でほぼ作る判断になる
今までご説明したように、税務面の優位性×資産承継の優位性が理由で、最終的には資産管理会社を一つは作ろうという判断になる方が多いです。ですから、どのような上場会社オーナーや会社売却富裕層の方であっても、基本的には資産管理会社を持っている方の方が多いという結論になっていると考えます。
本日は「上場会社オーナーと会社売却富裕層が『資産管理会社』を作る理由」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中