はじめに
米国の銀行持ち株会社で、テック関連のスタートアップに融資することで有名なシリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻し、事業を停止したということが、米連邦預金保険公社(FDIC)によって発表されました。
SVBは、主にシリコンバレーや他の新興企業を取引先としていて、2022年末時点で総資産は2,090億ドル(約28兆円)、預金総額は1,754億ドル(約24兆円)でした。
SVB破綻は、2008年のリーマンショック以来最大のものであり、金融システム全体に影響がでる可能性があるため、米国株式市場では10日に金融株が売られ、リスク回避の動きが強まりました。
SVBが経営破綻した原因
リーマンショックとは、2008年に発生した金融危機の引き金となったリーマン・ブラザーズの破綻を指します。その後、世界的な金融危機が発生し、多くの金融機関が破綻しました。
今回のSVBの破綻は、金利上昇による債券価格の下落が原因であり、リーマンショックのような流動性危機とは異なりますが、金融危機に対する警戒感が高まっていることは事実です。
投資家やアナリストたちは、SVBの危機により、他の金融機関にも同じような問題が起きるかもしれないと懸念しているからです。
SVBは、VC出資のスタートアップに融資することで知られています。しかし、コロナ禍で流れ込んだ多額の資金を米国の長期債やMBS(住宅ローン担保証券)に投資しましたが、金利が上がって債券価格が下がったため、銀行の危機が発生しました。
そして、2023年に入り、顧客が預金を引き揚げ始めたことから、銀行は一部の有価証券を売却し、損失を計上することになったのです。これが株価の急落につながり、さらに、VC投資家がスタートアップ企業から資金を引き揚げるよう助言したことで、懸念が高まりました。
このような出来事は他の金融機関にも起こる可能性があるため、投資家やアナリストたちは、銀行業界における危機の連鎖を心配しています。また、VCが投資するハイテクとヘルスケアの2022年のIPO(新規株式公開)企業の44%がSVBの取引先であり、同行を救済しないと多くのベンチャー企業が倒産する恐れがあります。
SVBは、コロナ禍で預金が急増しましたが、ビジネスモデルに問題があることが明らかになりました。預貸率が低迷していた上、米国債などの有価証券を多く保有していたため、FRBの急速な利上げにより含み損が膨らんでしまったのです。
この問題は、スタートアップ企業への融資に強みがあるものの、ビジネスモデルが預金中心であることから生じたもので、今後、他の金融機関にも同じような問題が発生する可能性があります。
SVBの破綻による日本への影響は?
日本では、金融機能強化法により、資産超過状態でも公的資金を投入できるため、金融システムは安定しているとされています。しかし、金融危機における問題点は流動性危機、つまり信用不安が発火点になることが、SVBの破綻によって明らかになりました。
1997年には、日本でも預金者の取り付け騒ぎが発生しました。当時、有名な地方銀行の預金が流出し、大蔵省と日銀が共同声明を出し、信用不安の沈静化に取り組みました。預金を全額保証すると宣言したにもかかわらず、不安は収まりませんでした。
SVBは、スタートアップ企業からの大口預金に依存していたため、問題が生じました。一方、日本の地方銀行は預金者に個人が多いので、資金が急速に逃げることはないとされています。ただ、日本経済新聞によると、日本の地方銀行が国内外の債券で抱えている含み損は2022年末時点で3兆円もあります。債券運用依存のビジネスモデルに問題がないかどうかを点検することが急務となりそうです。
まとめ
3月13日、2008年のリーマンショックのような金融危機にはしたくないので、FDIC、FRB、米財務省はSVBの全預金救済を発表しました。これを受け、米国株式市場の先物は上昇しています。
ただ、投資家たちは、SVBの経営破綻による危機の連鎖を心配し、同じような特徴を持つ金融機関がないか、注目しています。
金利が急上昇する環境では、一部の銀行が経営危機に陥るのは当然だと認識しているからです。FRBは、金融環境を引き締める方針を明確にしており、これが他の金融機関にも影響することは避けられないので、今後も警戒が必要です。
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。