本日は「米ドル債券への投資タイミングを迷わなくていい理由」といった内容で株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口が解説いたします。
目次
はじめに
当社のお客様ですと、富裕層の方が多いので、米ドル建ての個別の債券への投資を検討されている方々が非常に多くいらっしゃいます。そういった方々の中に、「米ドル債券にいつ投資したらいいですか?」「ずっと投資のタイミングを待っています。」というタイミング待ちという状態の方、投資のタイミングを迷われている方が実は多くて、そういったご質問をよくいただきます。
そのような方にぜひお伝えしたいのは、「もう迷わなくていいです!」ということです。迷っている時間がもったいないです。
そういったことを前回聞かれてから1年~2年経っていますが、まだタイミングを見て投資されていないという方も結構いらっしゃるので、ぜひ、そのような米ドル債券投資のタイミングに迷われている方はぜひご覧ください。
今回の内容はこちらの動画からもご覧いただけます。
10年国債利回りと米ドル/円の推移
まずは、特に米ドル債券投資に重要な2つの指標を見ていきたいと思います。
アメリカ10年国債の利回りと米ドル/円の過去1年間の推移を比較したチャートを見ていただければと思います。下のチャートをご覧ください。
出典:TradingView
※上記は過去の実績であり、将来の利回りやレートを示唆あるいは保証するものではありません
アメリカの10年国債の利回りはオレンジ色のチャートになっておりまして、数値は左縦の軸になっています。米ドル/円の為替のチャートは青色のチャートになっています。数値は右側の縦ラインに載っております。
これを見ていただくと分かるように、ほぼ連動しています。アメリカ10年国債利回りと米ドル/円の推移というのは、ほぼ連動していることになっているわけです。
見ていきますと、1年前の2022年の2月~3月ぐらいからこのチャートは出ていますが、米ドル/円が115円ぐらいからスタートしていて、その時はアメリカの利回りの金利というのも2%ぐらいから始まっていますが、昨年、インフレなどの懸念から、アメリカのFRBの利上げなどによって、長期金利もかなり押し上げられて、利回りも上がってます。
昨年の5月~7月ぐらいには、アメリカの利回りで3%~3.2%ぐらいまでいき、それにより為替のドル/円も押し上げられ、130円台に入るという推移がありました。そこから一気に昨年の9月~11月ぐらいまで駆け上がって、ドル/円の推移に関しては140円台までいって、150円台に一瞬つけたということになって、アメリカの金利も4%台を突破するというような水準になったわけです。
そこから年末にかけて、金利の方は下がっていって3%後半ぐらいで今は安定的に落ち着いているのですが、そこから金利と為替は若干乖離します。
金利と為替は若干離れた動きをしていたのですが、2023年に入ってから再び連動するような動きになっていて、アメリカ金利が3.5%~4%弱や3%後半ぐらいまで上がっていると思いますが、それに伴って為替の方がまたドル高円安に進んでいるということで、ほぼアメリカの金利とドル/円というのは連動した動きをしていたということが言えるわけです。
これが、米ドル債券の投資タイミングを迷わなくていい理由そのものであるのです。
つまり、米ドル債券のタイミングを待つ理由は2つしかないと思うのですが、利回りが上がるのを待つか、為替がドル安円高になるのを待つという、このどちらかだと思います。
ただ、これは左を立てれば右が立たずで、金利が高い時、債券の利回りが高い時というのは、基本的にドル高円安になっているものです。ですから、金利では有利なのですが、為替では不利になっています。
一方で、為替がドル安円高になっている時はどういう状態かというと、金利の方が低くなっている、債券の利回りが低くなっている状態になります。ですから、債券利回りと為替はトレードオフの関係になっているので、どのタイミングで投資をしたとしても、どちらかが有利でどちらかが不利という状態になっているわけです。
これが、投資タイミングを迷わなくていい理由なのです。どこで投資をしても、経済合理性がだいたい同じぐらいになっているということなのです。
ものすごく深い洞察があってこういう状況を待っているという、そういったものがあればまた別ですが、あまり意味がなく、「利回りが何パーセントになる」「為替が1ドル125円になるのを待つ」ということなどを考えたとしても、125円になっている時には、結局、債券の利回りが4%まで下がっている可能性が高いわけです。
ですから、実は意味がない可能性があるというのが、今回、私がお伝えしたい内容です。
利回りと為替はトレードオフの関係
実際の債券で言うとどういうイメージになるのかを、もう少し具体的に見ていきたいと思います。下の図をご覧ください。
出典:株式会社ウェルス・パートナー作成
価格が緑色の四角く囲まれた箱の中に条件が全部書いてありますが、価格が債券は100で発行されて100で償還していくので、価格が100の状態であると分かりやすくしています。債券の利回りで言うと5%です。年間5%で回ります。その時の為替が1米ドル135円、だいたい今ぐらいの水準です。135円、こういう債券があるとします。
では、先程のアメリカ10年国債の利回りが上がったとすると、米ドル債券Aというのはどういった条件になっている可能性が高いかというのが、右上の赤いマスの中に条件が書いてあります。
アメリカの10年国債の利回りが上がると、相対的に世の中に存在する債券の魅力が相対的に落ちるので価格が下がるわけです。最初に、左側の緑の100であった債券が95に下がっています。
そうすると、逆に価格が下がっているので、利回りは上がるわけです。利回りは5.5%に上がっています。ではこの時に、1米ドルいくらぐらいになっているか、為替はどうなっているかと言うと、当然ドル高円安にいっているわけです。
アメリカの金利が上がれば、ドルの魅力が増すので、当然ドルが買われて円が売られます。そうすると、分かりませんが、1ドル140円ぐらいになっているわけです。つまり、この状態というのはドル高円安になっているので、債券の利回りにとって有利ではあるのですが、為替にとっては不利な状態です。
利回り的に見ると投資したいのですが、為替で見ると投資しづらいという風に思われる方も多いと思います。これが、アメリカの金利が上がった時のタイミングです。
もう1つのパターンは、アメリカの金利が下がった、安くなった、そのパターンが下の青色のマスの中に入っている条件です。価格は逆に上がるわけです。
アメリカの金利が下がると、今世の中に存在している債券の魅力が相対的に増すので、価格は上がるわけです。
100だったのが105に上がります。価格が上がると、当然利回りが下がるわけです。債券利回りが4.5%になります。
アメリカの金利が下がると、今度は為替のドルが売られて円が買われるので、ドル安円高になるわけです。そうすると、もともと135円だったのが1米ドル130円とかになるわけです。
この状態というのは、債券にとって、利回りでは不利です。もともと5%だったのが4.5%になっているわけです。
しかし、為替で見ると、1米ドル130円になっているので、米ドルで見ると安くなっているので、為替では有利なわけです。
このように、どちらにいっても利回りで有利になる時は為替が不利になっていますし、利回りが不利になっている時は為替が有利になっているのです。これが、利回りと為替がトレードオフの関係になっているということなのです。
これを見ると、タイミングを待っている意味が正直言ってあまりないです。
その期間、半年~1年の間に投資できなくて金利を得られない状態の方がもったいないということがよく分かる比較ではないかと思います。
投資をするタイミングを待つ場合のケース
では最後に、そうは言っても、このような状況であったり、このような考えを持っていたりする場合は、投資のタイミングを待つ意味がある場合もあります。そういった場合の代表的な3つのケースをご説明していきます。
既に保有している米ドルで投資をする場合
1つ目が、もともと米ドルを保有している場合です。もともと米ドルを保有していて、その米ドルから米ドル建ての債券に投資する場合は、タイミングを待つという意味がそれなりにあると思います。理由としては、先程の利回りと為替のトレードオフの関係が成り立たないからです。
先程までの話は、全て円から米ドルの債券に投資する場合の話ですから、もう既に米ドルがある状態ですから、為替のことはあまり考える必要はないわけです。
米ドルがある状態なので、単純に利回りが高い時に投資すれば投資するほど有利になるので、これはトレードオフの関係ではないので、債券利回りが単純に上がってくるのを待っているという意味はそれなりにあると思います。
極端に期間が短いもしくは長い債券に投資をする場合
2つ目が、極端に債券の残存年数が短い債券、イメージでは2年債や3年債などです。あるいは長い債券、お金が還ってくるまでに20年~30年という長期債、超長期債と呼ばれるような債券に投資する場合も、実は結構タイミングを待つ意味はそれなりにあると思います。
2年や3年の短期債の場合は、金利が上がったり下がったり、金利変動しても債券の利回りにほとんど実は影響しないのです。還ってくるまでの期間が短いからです。
債券投資のパフォーマンスに与える影響の大きいところが為替の部分が大きくなるわけです。ですから、短い債券に投資することを考えている場合は、米ドル安円高待ちということを考える価値がそれなりにあると思います。
超長期債の場合はどちらかと言うと、20年~30年とお金が還ってくるまでが非常に長い債券の場合は、逆に、為替がパフォーマンスに与える影響よりも、金利の変動などの方が利回りに与える影響が大きくなるわけです。
長期債の場合は、為替はあまり気にせずに金利が高い時に投資した方が、プラスの影響が大きくなります。その高い金利のまま長い間、その高金利を享受することができるので、金利の方を気にした方がいい可能性があるわけです。極端に期限が短い、長い場合も、トレードオフの関係が成立しないので、タイミングを待つ意味がある可能性があるということです。
日本の金融政策変更や金利上昇に賭ける場合
最後に3つ目が、これは一種の賭けになってしまうのですが、このような考えを持っているという方は仕方がないという話です。
日本の金融政策の変更で、出口に向かっている中ですが、量的緩和をやめたり金利を上げたりという、そうなる可能性が高いと思っている、日本の金融政策変更や金利上昇にベットしている方の場合は、実際、その政策変更がされた場合には、米ドル安円高にいく可能性は高いと思います。その時に米ドル債券の利回りは恐らく変わっていないはずです。単純にドル安円高にいっているだけで、金利は変わっていないので、為替が安くなった時に投資した方が当然有利なわけです。
そういった日本の金融政策の変更にベットしている、勝負に賭けているという方の場合は、そのタイミングも待ってもいいと思います。どうなるかは、もちろん分からないのですが・・・。そういったところが、米ドル債券投資のタイミングを待つ意味がある場合の代表的な例をご説明させていただきました。
まとめ
ただ、基本的には、やはりご自身の資産にとって最適な配分を考えて、その中で債券投資はこれぐらい必要と、債券の割合はこれぐらいが必要ということを決めて投資して保有するというのが一番大事ですので、本当に大事なのはタイミングではないということです。そういうことであれば、必要な分の資産配分に応じた債券を早めに投資して、早く利回り、金利を上げていくというのが一番いい結果になる可能性が高いと考えております。
本日は「米ドル債券への投資タイミングを迷わなくていい理由」という内容でお届けさせていただきました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中