2022年は記録的な円安・ドル高となりましたが、2023年はどのような動きになるのでしょうか。ドル円相場に影響を与える材料と注目点について解説します。
目次
記録的な動きとなった2022年のドル円相場
2022年の外国為替市場では、主要通貨に対して大幅な円安となりました。米ドル・円レートは2021年末の115.08円から10月20日の150.15円まで30.5%の円安となり、1990年以来32年ぶりの150円超えとなりました。また、ユーロや豪ドルに対しても10%の円安となったのです。
2月のロシアのウクライナ侵攻によって、原油や穀物などのコモディティ価格が上昇してインフレが進んだことや、米連邦準備制度理事会(FRB)が3月から利上げへと舵を切り、日米金利差が拡大したことが円安になった主な要因です。
為替相場の決定要因は?
為替レートを決定する主な要因は、需要と供給のバランスです。一般的に、ある通貨を買いたい人が多ければその価値は上がり(通貨高)、売りたい人が多ければその価値は下がります(通貨安)。そして、具体的な決定要因は複数ありますが、中長期的には主に以下の3つが影響を与えます。
金利差
一般に、ある国の金利が他の国よりも高い場合、金利の高い国の通貨は高くなります。これは、人々がより多くのリターンを得るために、金利の低い国の通貨を売り、金利の高い国の通貨を買いたいと思うからです。
貿易収支
一般的に、貿易収支がプラスの国(輸出が輸入を上回っている)は、その国の通貨が高くなります。これは、その国が購入するよりも多くの商品やサービスを販売しているため、より多くの外貨を受け取ることができるためです。
金融政策
中央銀行の政策も為替レートに影響を与えます。たとえば、中央銀行が金利を引き上げた場合、短期的には通貨高になる可能性があります。一方、中央銀行が量的緩和を行えば、通貨安になる傾向があるのです。
為替相場を予測することは非常に難しく、さまざまな要因が為替相場に影響を及ぼす可能性があります。ただ、為替相場を動かす要因とその効果を理解することは、日々のニュースや外国為替市場の理解を深めることにつながります。
2023年のドル円相場はどうなる?
米国をはじめとする欧米の主要国や日銀の金融政策の変化が予想されることから、2023年は円高が進む可能性が高い1年になると考えています。米国のインフレ率がピークに達し、日銀が長短金利操作の一部を見直したことで、日米金利差の縮小が意識され始めているからです。
2023年も米国の金融政策がカギになりますが、日銀の金融政策も重要だと考えています。米国を中心とした世界の金融政策は利上げの終了が見えていますが、日銀の長い異次元緩和は修正を迫られる転換点に差し掛かっているからです。
それでは、2023年の注目ポイントについて解説します。
米国の金利政策
2023年のドル円相場の見通しで最も注目されるのは、2022年に市場を揺るがした米国のインフレと金融政策の行方です。米国の物価上昇率は低下傾向にあるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)の物価目標である2%を大きく上回る高い伸びを維持しています。
ただ、今後、米国の物価上昇率が目標に向かって順調に低下していけば、FRBは利上げを中断し、金利引き下げを検討することができるようになります。その場合、米国金利の低下により、円高・ドル安が進行することになると考えています。
ロイター通信によると、過去4回の局面におけるFRBの「最後の利上げ」から「最初の利下げ」までの平均は8カ月半です。2023年2月が最後の利上げとなった場合、最初の利下げは11月のFOMC、3月が最後とすると12月から利下げがあってもおかしくありません。
FRBは2006~2007年にかけて12カ月間政策金利を高水準に据え置き、2008年のリーマンショックを招いたともいう意見もあります。1年以上もの長期間、金利水準を高くしておくのは経済や金融市場に与える影響も大きくなるので、年内の米国の利下げを織り込むような形になれば、円高・ドル安が進む可能性が高くなります。
日銀総裁人事が為替相場に与える影響
政府は、日本銀行の黒田東彦総裁の後任人事案を2月に国会に提出する方向で検討に入りました。副総裁候補2人とともに衆参両院の議院運営委員会の理事会に提示。国会の同意が得られれば、政府が任命します。
黒田総裁の任期は4月8日、雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月19日までとなります。後任の顔ぶれによって、大規模な緩和を続けてきた日銀の今後の金融政策の在り方が決まるのです。
日銀などの中央銀行は独立した存在であり、政府の干渉を受けないことが望ましいとされます。なぜなら、政府は一般に目先の景気浮揚や税収増を重視し、景気刺激のためのインフレ的な金融緩和政策を求めがちであり、金融政策の健全性を歪めてしまう可能性があるからです。
日本の場合、戦後長らく政府が日銀の業務や総裁人事について強い権限を持ち、日銀は独自の金融政策を決定することができませんでした。そこで、1997年に日本銀行法を改正し、日銀の独立性を明確にしたのです。これにより、最高意思決定機関である委員会の権限が明確になり、独自の金融政策が実施できるようになりました。
今後、誰が日銀の総裁についても「脱アベノミクス」に舵を切る可能性は高いでしょう。国内の長期金利上昇圧力が高まれば、円高・ドル安が進む可能性は高くなります。
まとめ
2023年の米国は利下げ、日本は金融緩和の見直しが行われる可能性があり、どちらも円高・ドル安要因となります。ただ、為替相場は金融政策だけで決まるわけではないので、大きな方向性は円高・ドル安とみながらも、その他の要因で大きく流れが変わる可能性がある点には注意が必要です。
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。