はじめに
昨年、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕された事件は社会に大きな衝撃を与えました。逮捕された容疑は二つあります。
一つは金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)です。役員報酬額の一部を意図的に有価証券取引報告書に記載しなかったものです。もう一つは会社法(特別背任罪)です。日産自動車からサウジアラビアの知人側に約12億8千万円を支払わせたというものです。
これだけではなく日本やブラジルやフランスなどにある役員社宅や、宮殿を借り切ったパーティなどの事実が明らかになるにつれ、世界的にも著名な経営者が会社を私物化していたと言われかねない事件に注目が集まっています。今回は経営者の福利厚生について考えてみます。
高額な役員報酬
会社は経営者の旗振りや経営判断により、その成果が大きく変わります。日本の企業でも他の企業で経営成果を上げているプロ経営者をヘッドハントすることが増えてきました。会社の発展に対する貢献度が高ければ、インセンティブとして高額な報酬が認められるのも当然の流れといえます。
上場企業では1億円以上の高額報酬を支払った際には有価証券報告書への記載が義務付けられており、2018年には240社538人が1億円以上の役員報酬を受け取っています。
株式会社では、役員は株主から経営を委託されているという身分なので株主の承認なしに役員報酬を決めることはできません。実際に上場会社では高額な役員報酬や退職慰労金は株主も関心が高い項目です。株主は役員の報酬が、その働きに対して過大でないかを見極め、その役員を再任するかを株主総会で判断しています。
中小企業では株主は社長本人やその親族であることが多いため、「お手盛り」になりやすくチェックがかかりにくくなります。その代わりに失敗すれば収入も資産も失うことから「自分の会社、自分のお金」という一面が強くなり、規模の大小はあるにしても、公私混同はよく見られるものなのかもしれません。
高級社宅
高級社宅の貸与については、役員個人に対する経済的利益の提供とみなされれば給与とされ、役員個人には所得税がかかり、会社には法人税等の対象になります。
役員に対する社宅家賃の取り扱いは、従業員に対する場合とは異なります。税務上で判断すると下記のようになります。
(国税庁HPより)
役員の社宅家賃
役員に対して社宅を貸与する場合には、役員から1か月あたりの一定額の家賃(以下「賃料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。
賃料相当額とは、貸与する社宅の床面積により小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分け、次のように計算します。ただし、この社宅が、社会通念上一般的に貸与されている社宅と認められないいわゆる豪華社宅である場合は、次の算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃料相当額になります。
(中略)
役員に貸与する社宅が小規模な住宅でない場合
役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃料相当額の算出方法が異なります。
(1)自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ロ(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm
豪華な社宅とはおよそ床面積が240平方メートルを超えるもので設備や内外装などの要素を勘案して判断されます。その場合、賃料相当額として認められるのは実勢価格に基づいた金額です。
一定の家賃を支払っていない場合や、実勢価格相当の賃料が支払われていない場合には経済的利益の提供として個人への給与支給と認定されることがあります。
高級車・プライべートジェット
社用車が経費として認められるのは、その利用実態が業務用である場合のみです。営業用として使用されている場合は経費として認められますが、プライベートで使用されている場合には、経費とは認められず個人に対する給与となります。運行記録などを整備して業務用に使用されていることを示す必要があります。
車の種類については「ベンツはOK、フェラーリはNG。4ドアはOK、2ドアはNG」などの話を聞くことがあります。結論から言うとこれらは正しくもあり誤ってもいます。
趣味性の高い車は税務署から否認されやすいのは事実ですが、利用実態が業務で用いられていれば経費として認められる場合もあります。単なるステータスや働きに対するご褒美、または節税対策として考えるだけではなく、事業における活用方法を十分考えて車種を選定しなければなりません。
プライベートジェットについても考え方は同様です。日本で活動するだけではあまり必要性が感じにくい部分もありますが、業務で頻繁に海外を行き来する場合などで、時間と安全を確保するのであればプライベートジェットやヘリも認められます。
まとめ
高額報酬や豪華社宅などは、経営者のインセンティブとして効果もあり、税務上も認められているものもあります。取引先には「あそこは商売が順調だ」というイメージを与え、社員にも「いつかはああなりたい」と奮起を促す効果もあります。
一方であまりに高額な報酬や豪華な社宅、高級車などは、従業員から「搾取されている」という印象を持たれやすく、会社の一体感が得にくいという一面もあります。また公私混同とみられやすいことから会社の士気を下げることもあります。
また今回の事件のように内部告発がされることや、税務署から調査が入りやすくなることもあり、最悪のブランドイメージの低下にもつながります。
世界的に有名な経営者でも陥ることもあるこうした事例は、企業経営者にとっては改めてルールを逸脱していないか、社会通念上許容範囲に収まっているかなど我が身を振り返る機会としなければなりません。