はじめに
世界中で個人投資家が急増しています。新型コロナウイルスの感染拡大で外出を自粛する人が増える中、自宅でスマートフォンを使って株式を売買する投資家が増えているからです。
給付金や休業補償なども元手になっており、若年層を中心に投資家層の拡大につながっています。
米国ではロビンフッドが活況の要因に
米国の若者に人気あるのが、売買手数料ゼロと使いやすさを売りにしている新興インターネット証券の「ロビンフッド」。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年1月から3月に300万の新規口座が開設され、3月以降に取引額が急増しました。
本社をカリフォルニアに置くロビンフッドは、2013年に設立。株式売買の手数料を無料化し、証券業界に価格破壊を起こしました。30歳前後の若年層を中心に支持を集め、口座数は2019年12月に1,000万件を突破。今年も300万件以上増加し、半数以上は初心者です。
ほかのネット証券の口座数も急増しています。個人が投じるお金の一部は政府の給付金です。米CNBC によると、年収400~800万円で給付金を受けた家庭の場合、もっとも増えたのは「貯蓄」、2位は「引き出したままの現金」でしたが、3位は株式投資になり、ほかの支出を上回りました。一人当たりは少額でも、集まればマーケットを動かす力を持つようになっています。
ロビンフッドのビジネスモデル
ロビンフッドの売買手数料は無料ですが、どのようにして収益を上げているのでしょうか。
ロビンフッドが収益を得ているのは、主に「ゴールド口座」です。月額5ドルの有料口座で、モーニングスターによる詳細なレポートを閲覧できたり、Nasdaqのリアルタイムの売買をモニタリングできたりする機能が提供されています。
また顧客口座に保管されていて、投資に使われていない残高から利息を得ています。しかし、これは非常に小さな金額なので、ロビンフッドの収益の柱にはなっていません。
それより問題になっているのが、高頻度取引会社への顧客取引販売です。ロビンフッドは自社ユーザーの注文を、高頻度取引会社に回送することで収益を得ています。ロビンフッドを通じた売買が増えるほど、高頻度取引会社も潤うという関係になっているのです。
日本でも手数料無料化の波
2019年12月から2020年1月にかけて、日本の主要ネット証券は売買手数料の無料化を次々と打ち出しました。インターネット取引を主力とするauカブコム証券と松井証券は、2019年に信用取引と投資信託で手数料を撤廃。
SBI 証券や楽天証券では、50万円以下の国内株式手数料を無料にしました。証券会社の手数料は、国内株や外国株の現物取引手数料、国内株の信用取引手数料、投資信託の販売手数料などがあります。
株式売買委託手数料は、金融ビッグバンの柱として1999年に完全自由化。ネット証券主導で値下がりが進みました。今回は、金融ビッグバン以来の2度目の大きな変化となります。
手数料の無料化が進む背景には、金融当局が手数料の透明化を求めていることもあります。低金利が続く中、高い手数料を取れば投資家の運用成績が振るわなくなるからです。
ネット証券は手数料収入がなくなるので、ほかの収入源を確保しなければいけません。証券会社の手数料以外の主な収入源として、信用取引における金利や貸株料、投資信託の信託報酬、金融資産に対するアドバイス料、自己売買収益などがあります。
これまで手数料の安さを競ってきたネット証券ですが、ビジネスモデルを大きく変えなければ生き残れない時代に入ったのです。
新しい証券会社の誕生
さらに、手数料無料を武器にした証券会社も誕生しています。「SBIネオモバイル証券(ネオモバ)」と「STREAM(ストリーム)」です。
ネオモバとは
出典:ネオモバ
ネオモバは、日本で初めてTポイントを使って株が買える証券会社。「投資を始めたいけどまとまったお金がない」という人でも、Tポイントを使って株を購入できるので、気軽に投資を始められます。1ポイント1円相当で利用でき、Tポイントとの連携手続きを行えば、ネオモバ口座に反映されるのです。
通常の株式は100株単位での購入になりますが、ネオモバでは単元未満株を利用し、1株単位で株を購入できます。ですから、数百円で購入できる銘柄もあるのです。
また通常の株式の取引は、1回の注文ごとに手数料がかかりますが、ネオモバでは月額のサービス利用料のみで利用できます。サービス利用料は以下の通りです。
出典:ネオモバ
ただ、期間固定 T ポイントを毎月200ポイントもらえるので、1カ月の約定代金が50万円以下の場合は、実質20円で取引できます。
STREAM(ストリーム)
出典:STREAM
ストリームは、現物取引も信用取引も手数料がゼロ円です。ほかの証券会社のように「約定代金〇〇円以下」というような条件はなく、無制限に無料です。ストリームではダークプールを利用した「SMART取引」を採用しています。ダークプールとは、顧客から受けた注文を東京証券取引所に発注せず、ほかの株式の注文と付け合わせることで取引を成立させる方法です。
まとめ
米国ではロビンフッドを中心とした手数料無料化の証券会社が台頭し、個人投資家の勢いが増しています。手数料無料化は昨年から始まっていましたが、今年の新型コロナウイルスの感染拡大で外出を自粛する人が増える中、自宅でスマートフォンを使って株式を売買する投資家が増えているのです。
国内でも手数料無料の証券会社が参入するようになってきており、既存の証券会社も手数料だけでは稼げなくなっています。投資信託の預かり資産を増やしたり、アドバイス料を取れるような質の高い情報を提供したりできなければ、生き残れない時代になっているといえるでしょう。