皆さん、こんにちは。株式会社ウェルスパートナー代表の世古口です。
目次
はじめに
本日のテーマは、「米金利下落!米ドル債券の黄金時代は終了か!?」です。今のアメリカの金利は歴史的に見ても非常に高い水準であることは言えるのですが、ただし、実は直近、足元ではアメリカの金利が下落傾向にあります。
アメリカの金利は、皆さんが投資されているような米ドル建て債券の金利の全ての基準になっていますので、アメリカの金利全体が下落すると、投資するドル建て債券の利回りも下がるということで、「米ドル建て債券の時代が終わるのではないか!?」という話も出てきました。そこで今回は、アメリカの金利が下落している現状や、来年以降の見通し、米ドル債券の投資についてお伝えできればと思います。
アメリカ10年国債利回りの推移(過去1年)
まずは直近の足元のアメリカ金利の状況を見ていきましょう。
こちらはアメリカ10年国債利回りの推移、過去1年のチャートを表しています。アメリカ10年国債利回りが、最も代表的なアメリカ金利の基準になる金利になっていまして、皆さんが投資されるような米ドル建て債券の全ての基準金利と考えていいと思います。この金利が上がっていると、投資先の債券の利回りも上がり、下がると債券の利回りも下がると考えてください。
こちらは過去1年のチャートですが、年初から見ると、今の金利は結構高い状態であるのが分かります。今年の前半は4%以下で推移していましたが、年の後半、8月以降から4%を超えて上昇していって、10月頃には一番高い時で5%まで上昇しています。そこがピークで、そこから下落していて、今年の10月から1ヶ月強ほどで、今の足元で見ると、2023年11月30日は4.3%まで下落しています。ピークは5%で4.3%なので、0.7%ほど下落しているわけです。とはいえ、4.3%ありますので、2023年のアメリカ10年国債利回りの中央値はおそらく4%程度だと思いますので、それを超える水準ではあります。ですから、平均と比べても比較的高い水準ですし、2022年のアメリカ10年国債利回りが一番高かった状況が4.2%程度の水準ですので、まだそれを超えている水準ではありますので、金利が高い状況であることは変わりありません。ただ、このように今年10月からすると下落トレンドにあるということは、これを見ていただくと分かると思います。
アメリカ政策金利の市場予想(2023年11月30日)
なぜこのようにアメリカ10年国債の利回りが下落しているのかをご説明するために、アメリカの政策金利の市場予想を見ていきましょう。
こちらは直近の2023年11月30日のデータです。これを見ると、なぜ今アメリカ金利が低下しているのかお分かりいただけると思います。先ほどの10年国債利回りは、投資家の方々の投資や市場の動向によって変わるものですが、このアメリカ政策金利は、アメリカの中央銀行が決めている金利水準ですので、政策金利という風に言っているわけです。
現在5.25%という金利水準ですが、来年の年末までの1年間の金利の各市場の予想確率を数字で表しています。予想確率が一番高いものは青く色塗りされてパーセントが記載されています。2024年1月までは5.25%という現在の政策金利が継続すると考えていますが、2024年3月には青色のマークが1個下にいき、金利が0.25%下がっているとの予想です。つまり、2024年3月にアメリカは政策金利を下げる、利下げをスタートすると市場は予想しているということです。5月も同じ5%で、そこから階段状に少しずつ金利が下がっていき、2024年の12月には4%まで金利が下がるのではないかと今のところ市場は予想しています。
では、これは何が今年の10月の金利がピークだった時と違うのかというと、明確に違いがあります。実は今年の10月頃は、金利がもう1段階上がるのではないかという見方が結構ありました。今は5.25%ですが、もっと右側に5.5%までいくのではないかという可能性も実は3~4割程度ありました。しかし、今現在足元の金利の見通しを見ていただくと分かるように、その可能性は2~3%しか織り込まれていません。つまり、「もう利上げはない」と市場予想では確定しているということが分かるわけです。
また、来年の利下げは今年の10月に予想されていましたが、利下げのタイミングは結構前倒しになっています。元々は来年の5月~6月に金利を下げ始めるという予想でしたが、それが3月に前倒しされています。予想としては3月が一番可能性が高いのではないかと予想されているので、利下げの時期が早まったことも、アメリカ10年国債利回りの金利が低下している理由になっているわけです。
来年の年末、今年の10月は短期の政策金利は4.25%程度で落ち着くのではないかと思われていたのも、それよりも1段階下に金利がいくと、4%まで下落すると予想されていました。まとめますと、今年の10月と11月末を比較すると、5.5%の利上げの可能性が市場予想ではなくなって、プラス、利下げの予想が3月に前倒しになりました。さらに、来年の年末の政策金利の絶対水準も10月よりは低くなるだろうというような市場の予想が強くなったことによって、それを織り込んで、アメリカ10年国債利回りも、先ほどチャートで見ていただいたように、ピークの5%から4.3%まで下落したということになっているわけです。
そのようなアメリカ10年国債利回りの下落を織り込んで、皆さんが投資されているような米ドル建て債券の利回りも、同じ程度の水準に低くはなっていますので、一時期よりは投資している米ドル債券や社債の利回りも低下していると理解していただいてよいと思います。
まとめ
本日のテーマである「米金利下落!米ドル債券の黄金時代は終了か!?」をまとめます。ポイントは4つあります。
ポイント1)利下げ予想の早まりがアメリカ10年国債利回りも押し下げられている
利下げの予想が早まりましたので、アメリカ10年国債利回りも押し下げられているのが直近の状況です。今後、金利がどうなるかは分かりません。このようにアメリカ金利の下落要素が強まっているのも、経済の統計やインフレ率などの予想が、インフレがあまり継続しなさそうな数字が何個か出ただけでこのような状況になっていますし、またインフレが強まりそうな経済統計が今後出てきて、また金利が高まる可能性も十分にあります。ですから、確実にこのまま金利が下がり続けるかどうかは分からないと考えていただいてよいと思います。
ポイント2)米ドル債券利回りは通常時より高い状態
確かに、アメリカの金利が下がることによって、皆さんが投資しているような米ドル債券利回りも、足元では下落してはいますが、通常時よりは金利水準はまだ高い状況にあると考えていただいてよいと思います。アメリカ10年国債利回りで現在4.3%です。2022年にあれだけのインフレの時代に一番高かった時は4.2%でした。ですから、まだそれを超えている水準ではありますし、アメリカの今の実力を考えた時の通常時の経済状態での10年国債利回りは3%程度だと思いますので、それを1%以上超えている状況です。皆さんが投資している米ドル債券の利回りは、通常時より高い状態であると言えると思います。
ポイント3)市場予想通りだと黄金時代は2024年の前半までか
ただ、市場が考えている通り、先ほどアメリカの政策金利を見ていただいた予想通りに金利が動いたとして、2024年3月から利下げが始まったとすると、米ドル債券の利回りもそれを織り込む形で、先回りして低下していく可能性は高いと思います。巡航速度で行ったとすると、債券の投資時期の黄金時代と言っていますが、この状況であれば投資した方がいいという状況は、もしかしたら2024年の前半までという可能性もあるのではないでしょうか。
アメリカの政策金利を一度下げると、「方向性はどちらなのか?」と市場が混乱するので、FRBは上げて下げては繰り返しません。基本的に上げる時は上げて、下げる時は下げていくということになります。ですから、一度利下げが始まると、利下げは止まらない可能性が考えられます。ペースは状況によって変えていきますが、トレンドとしては下げる方向でいくと思います。今のところの市場予想で言うと今年の3月ですから、利下げが実際に行われると、政策金利をそのまま下げていくという予想が強まると思います。巡航速度で行くと、2024年の2~3月頃までが債券の黄金時代になる可能性は十分あると思います。もちろん、今後インフレに強気の数字が出たり、経済統計などの統計が出たりすると、また金利が高まり、インフレ率も高まることも十分あり得ます。マーケットのことは分かりませんが、今の市場予想や巡航速度から判断すると、来年2024年の前半までが債券黄金時代である可能性はそれなりに高いと言えるでしょう。
ポイント4)債券利回りは下がっても米ドル安・円高の恩恵あり
利回りが下がっているので、米ドル債券に投資しない方がいいと思われる方がもしかしたらいらっしゃるかも知れませんが、別のところでメリットも出るわけですので、そう考えるのはやや早計と言えます。それはやはり為替です。アメリカの債券金利が下がっていますので、それによって相対的に米ドルの魅力が下がり、円の魅力が高まることにより、米ドル安円高に動いています。直近のアメリカ10年国債利回りがピークであった今年の10月~11月には、ドル円が高い時は152~153円までいきました。今の足元はアメリカの金利が下がっていることによって、147円程度の円高になっているわけです。確かに米ドル建て債券の金利は下がっていますが、為替においてドルが割安になっているので、ドル安円高の恩恵を受けられます。安いドルのタイミングで米ドル建て債券に投資できますし、米ドル建て債券の利回りと米ドル円の為替のトレードオフの関係はまだ継続しているので、金利が下がったからといって悲観的にならなくてもいいと思います。その分割安に外貨(ドル)が買えていると考えてよいと思うわけです。
本日は「米金利下落!米ドル債券の黄金時代は終了か!?」という内容でお届けさせて頂きました。
株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中