事業の成長と経営の安定を図る上で、本業の収益に加え、余剰資金の有効活用は欠かせません。株式や債券を運用する方法もありますが、金融市場の大きな変動はリスク許容度を超える可能性があります。
本記事では、余剰資金を企業の新たな成長エンジンとするために、不動産投資を検討する際の具体的な戦略と注意点を解説します。単なる資金の置き場ではない、戦略的な不動産投資の考え方をお伝えします。
目次
不動産投資が企業にもたらす3つの戦略的メリット
不動産投資は、単なる資金運用ではありません。企業経営にさまざまなメリットをもたらす、戦略的な一手となり得ます。ここでは、事業会社が不動産投資を行うことによって得られる主なメリットを3つご紹介します。
安定的な収益源の確保
不動産投資の最大の魅力の一つは、安定した家賃収入です。これは、本業の業績や景気変動に左右されにくいため、企業全体のキャッシュフローを安定させる効果があります。
本業が一時的に不振に陥ったとしても、収益物件からの安定収入があれば、経営の継続性を保てます。収益源の多角化によって、特定の事業にのみ依存するリスクを軽減し、強固な事業ポートフォリオ構築につながります。
安定したキャッシュフローは、設備投資や研究開発など、本業の成長のための投資にも充当できます。不動産が生み出す収益が、本業のさらなる発展を支える「もう一つの収益基盤」となるのです。
インフレヘッジと資産価値の向上
預貯金は、インフレが進むと実質的な価値が目減りするリスクがあります。本業によって得た収益を寝かせたままにしておくと、その購買力は徐々に失われてしまうのです。
不動産は実物資産であるため、物価上昇に合わせて資産価値が上昇し、ワンテンポ遅れますが家賃も連動して上昇する傾向にあります。不動産の取得は、インフレに対するヘッジとなり、資産価値を保全する効果を発揮します。
ブランディングの強化
企業が保有する不動産は、単なる事業活動の拠点に留まらず、企業のブランドイメージを形作ります。戦略的な不動産投資によって、企業のブランディング強化が可能です。
オフィスビルを自社の企業理念や事業内容を体現するようなデザインにし、顧客や取引先に強い印象を与え、企業の価値観を伝えられます。地域のランドマークとなるような物件を所有したり、地域貢献につながるような開発を行ったりして、社会的な信用力や知名度を向上させられます。
従業員にとっても、快適で魅力的なオフィス環境は、企業への愛着やモチベーションを高める効果があります。
CRE戦略の本質と企業価値向上
事業会社が取り組む不動産投資は、「CRE戦略」と呼ばれます。企業が保有する不動産は、単なる固定資産ではなく、企業の成長と競争力を支える重要な経営資源です。資産を戦略的に活用し、企業価値の最大化を図る取り組みがCRE戦略なのです。
固定資産を収益源に変えるCRE戦略
CRE(Corporate Real Estate)戦略とは、企業が保有・利用する不動産を経営戦略と連動させ、最適化を図る考え方です。対象は本社ビルや工場、倉庫、社宅など事業関連のすべての不動産が含まれます。
国土交通省の「CRE戦略を実践するためのガイドライン」では、CRE戦略実践の要点として、①資産の見える化、②経営戦略との統合、③定期的な見直しを提案しています。
不動産はコストを生むだけの「守りの資産」から、収益を創出する「攻めの資産」へと変貌します。「所有すること」が目的だった不動産を「成長のために活用する資産」へと進化させるのがCRE戦略の本質なのです。
CRE戦略が生む経営メリット
CRE戦略の導入は、企業に相乗効果を含むメリットをもたらします。事業計画に沿って不要な不動産を売却すれば資金効率が改善し、収益物件として活用すれば安定的なキャッシュフローを確保できます。
戦略的な不動産運用は、M&Aや事業再編の局面でも優位性を発揮します。事業売却時、不動産の処遇を事前に設計しておくと、交渉が円滑に進み、取引条件の最適化にもつながります。
CRE戦略は、単なる不動産の有効活用にとどまらず、企業の中長期的な競争力と企業価値の向上に直結する重要なマネジメント手法なのです。
事業会社のための3つの不動産投資法
不動産投資にはさまざまなアプローチがありますが、ここではCRE戦略にもとづく3つの不動産投資法について解説します。
既存保有地の有効活用
事業会社が所有する土地・建物の中には、有効活用されていないものがあるかもしれません。自社の遊休地や低利用地の再開発・賃貸運用は、リスクを抑えながら新たな収益源を生み出す有効な手法です。使われなくなった工場跡地を商業施設や物流倉庫として賃貸する、老朽化した社宅をリノベーションして賃貸マンションとして運用するなどの方法があります。
既存保有地の有効活用は新規に不動産を取得しないため、資金調達の必要がない点がメリットです。また、土地を売却しないため、将来的な土地の再利用や事業拡大の可能性を残せる点も有利です。本業で培った知見を活かせる場合もあり、シナジー効果を生み出しやすい点も大きな魅力です。
収益不動産の新規取得
不動産市場には、安定した家賃収入を期待できる収益物件が存在します。事業会社が自社の戦略に合わせて、これらの物件を新たに取得するのも一つの方法です。
投資対象となる物件は多岐にわたりますが、居住用不動産と事業用不動産に大別できます。
居住用不動産投資は、区分マンションや一棟アパート、一棟マンション、戸建て賃貸など、人の居住を目的とする不動産への投資です。生活に不可欠な「住」を対象とするため需要は安定し、景気の影響を受けにくい家賃収入が得られます。
事業用不動産投資はオフィスや商業施設、倉庫、工場など企業利用の物件が対象で、高額な賃料収入や大規模な収益が期待できます。ただし、景気や社会情勢の変動に左右されやすく、大きな投資額と高度な知識、リスクマネジメントが不可欠です。
オフバランスによる流動資産の確保と財務体質の改善
企業が保有資産を活用して資金を確保する手法の一つに、リースバックがあります。保有不動産を売却後、売却先との賃貸借契約により継続利用を可能にするスキームです。売却で得た資金は、成長投資や事業再構築、有利子負債の圧縮などに充当でき、資本効率の向上と財務の適正化を図れます。
リースバックによるオフバランス化は、貸借対照表(バランスシート)から不動産という固定資産をなくすため、総資産を圧縮できます。その結果、総資産に対する利益の割合を示すROA(総資産利益率)などの財務指標が改善し、企業価値の向上にもつながるのです。
固定資産税や修繕費といったコスト負担も軽減できるため、キャッシュフローの安定化にも寄与します。自社ビルを保有する企業にとって、資産流動化の一環として、非常に有効性の高い資金調達手法です。
事業会社による不動産投資特有のリスクと注意点
事業会社が不動産投資を行う際には、個人による投資や資産管理会社による投資とは異なる特有のリスクと注意点があります。ここでは、事業会社による不動産投資特有のリスクを解説し、対策についても触れていきます。
金融機関の融資リスク
不動産投資には、多額の資金が必要となるため、金融機関からの融資が欠かせません。事業会社が不動産投資を行う場合、金融機関の融資基準が厳しくなるケースがあるため注意が必要です。
本業で付き合いのある金融機関であっても、不動産投資という新分野への融資に対しては慎重な姿勢を取る事例も見られます。融資審査が長期化したり、希望通りの金額を借りられなかったりする可能性があるのです。
不動産投資への融資を行う金融機関と新たに関係を持つ場合も、融資された資金が不動産投資以外の事業に流用されないか警戒されます。不動産投資の収益性や事業計画が本業と明確に分離され、適切に管理されているかどうかが厳しくチェックされるのです。
資金計画の策定段階から、専門家と連携し、金融機関が納得するような事業計画を準備するようにします。
運用体制の構築不足による収益性低下リスク
不動産は「買って終わり」ではありません。入居者管理・建物管理、賃料交渉、修繕計画の策定など、専門的な知識とノウハウが求められます。運用体制が不十分だと、空室率の増加や修繕費の増大を招き、期待した収益が得られない可能性があります。
外部の不動産管理会社に業務委託するとともに、社内に専門部署を設け、適切な運用体制の構築が重要です。外部のプロフェッショナルとの連携、専門知識を持った人材の育成によって、リスクを最小限に抑えて、安定した収益を確保できます。
税務・法務リスク
出典:不動産リスクマネジメント研究会 不動産リスクマネジメントに関する調査研究
企業による不動産投資には、個人による投資とは異なる複雑な税務・法務リスクがともないます。会計処理も個人事業主のものとは異なるため、法人税法上の減価償却費の計算や、物件の売買にともなう消費税の取り扱いなど、高度な専門知識が求められます。
法務リスクの一つとして注意すべきものに、宅地建物取引業法があります。会社所有の不動産の売却によって収益を得たことをきっかけに、反復継続して売買を繰り返すと宅建業法違反(無免許営業)に該当するケースがあります。
税務・法務の専門知識がないまま進めると、思わぬ税負担や法的トラブルに発展する可能性があります。必ず専門家と連携し、適正な手続きを踏むことが不可欠です。
不動産投資を事業として成立させるためのポイント
不動産投資を成功させるためには、リスクマネジメントを徹底し、戦略的に計画を進めることが重要です。ここでは、成功に不可欠な3つのポイントをご紹介します。
明確な投資目的と戦略の策定
不動産投資では、「なぜ投資を行うのか」という問いを最初に立てます。この問いを深掘りし、自社にとって最適な戦略を立案することがもっとも重要です。安定的なキャッシュフローの確保なのか、インフレ対策なのか、税務対策なのか、それによって選ぶべき物件や投資手法は異なります。
目標とする利回り、投資エリア、物件の種類など、具体的な投資判断基準をあらかじめ定めると、感情に流されない客観的な意思決定が可能になります。一貫性のある活動のためにも、投資目的と戦略の社内共有が重要です。
専門家を活用したデューデリジェンスの徹底
投資を決定する前に、専門家を活用したデューデリジェンス(適正評価手続き)を徹底します。専門家の客観的な意見の採用によって、より確実な投資判断が下せます。
建築士による建物状態や修繕履歴の確認、弁護士による契約内容のチェックなどがありますが、事業規模によっては、不動産鑑定士による物件の適正な価値評価も必要になります。
デューデリジェンスにかかる費用は、将来的な大きな損失を防ぐための必要経費と考えましょう。
社内体制の構築と外部パートナーとの連携
不動産投資を成功させるためには、社内体制をしっかりと整える必要があります。経営企画部門や財務部門を主導としたプロジェクトチームを立ち上げ、社内での緻密な議論が重要です。投資判断に必要なデータや論拠を整理し、スムーズな社内稟議を行うためのプロセスも大切となるでしょう。
加えて、外部の専門家チームとの連携も重要になります。不動産コンサルタントやIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)、税理士、弁護士などを含む専門家チームを組成し、リスクを最小限に抑えつつ、スピーディーかつ的確な意思決定を下せるようにします。
まとめ
事業会社にとって不動産投資は、単なる余剰資金の置き場ではなく、CRE戦略として企業価値向上を目的とした戦略的な経営判断です。成功のためには、本業とのバランスを保ちながら、適切な運用体制を構築し、専門家との連携を密にすることが鍵となります。
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不動産投資にご興味をお持ちの経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

株式会社ウェルス・パートナー
リアルアセットマネージャー
早稲田大学商学部卒業後、大和ハウス工業株式会社へ入社。
富裕層・地主に賃貸住宅での土地活用ソリューション提案に従事。東急リバブル株式会社にて投資用不動産の売買仲介を経験後、株式会社ウェルスパートナーに入社。マネー現代など大手メディアでの記事執筆も行う。