2019
03/29

はじめに

一般に富裕層といわれる方々の中には、将来の相続に対して漠然とした不安を抱えている方も多いかと思います。相続に対しては、以下の三つの観点で早くから準備を進めておく必要があります。

まずはどの財産を誰にどれだけ相続させるかという「遺産分割設計」です。次に相続人が無理なく納税の原資を確保できるようにする「納税資金設計」。さらに個人の考えにもよりますが、できるだけ多くの財産を子や孫の世代に残したいと考える人にとっての「節税設計」です。

本稿では、これらのうち「節税設計」の観点を中心に、特に贈与による相続対策のメリットとデメリット、贈与する財産を選択する際の基本的な考え方について整理していきたいと思います。

贈与による相続対策のメリットとデメリット

一般的に贈与によって相続対策を行うメリットとしては、以下のことが考えられます。

①自分の意思で財産を継承することができる。

 財産のうち何を、誰に、どれだけ渡すかを自らの意思で決定することができ、確実に財産を継承することができます。もちろん相続により財産を継承する場合も遺言により相続財産の帰属先を指定することができます。

しかし、現実的には相続人全員の合意があれば、被相続人が遺言によって指定した遺産分割方法に反する遺産分割協議も有効に成立するとされており、被相続人の希望しない財産の分割に繋がる可能性があります。

②隔世贈与(孫などへの贈与)により相続税の課税機会を減らすことができる。

通常、財産は本人から子、子から孫へと継承されますが、子を経由せずに孫に対して財産を隔世贈与することにより、相続税が課税される機会が1回分減ることになります。これにより節税につながる場合があります。

③資産価格の上昇による相続税の負担増を回避できる。

贈与を行い、贈与財産のその時点の評価額で納税を完了することにより、将来の相続時点に評価額が上昇して、納税額が増加するリスクを遮断することができます。

国土交通省が発表した2019年1月1日時点の公示地価では、三大都市圏の住宅地の価格は前年対比で1.0%上昇しており、2014年以降6年連続で上昇しています。これに連動して相続税計算時の評価額も上昇するため、都心部など今後も地価の上昇が予想される地域に不動産を所有している方は、相続税の納税額が増加する可能性があります。

一方で、贈与を行う場合のデメリットはどうでしょうか。

①通常、相続よりも贈与の方が税負担は大きくなる。

 贈与税の税率は累進性が大きく、同じ金額で比較した場合に相続よりも贈与の方が税負担は大きくなります。従って、特段の考慮もなく、まとまった金額を生前贈与することは、節税の観点だけでいうと、通常は不利になります。

但し、一部の超富裕層については限界税率を考慮することによって、財産の一部を贈与しておく方が、相続の場合よりも有利になることがあります。

例えば、10億円の財産(課税価格)を保有する人が3000万円を20歳以上の子に贈与した場合、贈与税率は45%になりますが、その3000万円が相続財産として残っていた場合、それに対して適用される相続税率は55%となり、贈与の方が税負担は軽くなります。

②長期的な視点で、計画性をもった対応が必要となる。

 上記のとおり累進性が大きい贈与を節税という観点で活用するには、基礎控除の範囲内で多くの人に対して可能な限り長期間に亘り、継続して贈与を行うといった取り組みが必要となります。

贈与税の配偶者控除の特例、直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税の非課税といった各種特例があるものの、利用できる場面が限定されるため、基本的には贈与によって短期的に節税効果を得ることは難しいといえるでしょう。

贈与する財産の選択について

それでは、節税という観点では、どのような財産から贈与していくのが有効なのでしょうか。
まずは、将来、評価額が上昇する可能性が高い財産から優先的に贈与していくという考え方が基本となります。これによって、評価額の上昇に伴う税負担の増加を回避できることは、前項のメリット③でも記載したとおりです。

例えば東京圏の公示価格を見ると、住宅地については、2014以降の6年間で地価の上昇幅は約5%であるのに対して、商業地については、同期間で20%近く上昇しています。このように価格変動がある資産を譲渡する場合は、今後の価格動向も考慮したうえで、贈与財産を決定する必要があります。

また、時価と税額計算時の評価額の乖離幅が大きいものを優先することも有効な方法の一つです。現金は額面のまま、株式や債券も時価、すなわち市場における取引価格相当額で評価額が求められます。

これに対して不動産の評価額は時価に比べるとかなり低くなります。一般に土地については毎年、国税局が定める路線価、建物については固定資産税評価額をベースに評価されますが、路線価は時価の80%程度、固定資産税評価額は40~60%程度といわれています。

近年では、節税目的でタワーマンションを購入する資産家が増えていましたが、これはタワーマンションの特性上、時価と税額計算上の評価額の乖離幅が非常に大きくなることを利用した節税策です。

なお、この「タワマン節税」については、2018年以降の引き渡し分からは高層階ほど固定資産税評価額が高くなるように傾斜をつけるかたちで計算方法が見直されています。その分、節税効果としては多少、薄れたかもしれませんが、依然として有効な節税策であることに変わりはないと思われます。

もちろん長期的な視野をもって数十年かけて贈与を繰り返すといった計画の場合には、不動産は都度、登記費用その他のコストがかかるため、少額の分割譲渡には馴染まず、現預金や有価証券などの金融資産を中心に贈与していくことになります。

富裕層といわれる方が節税を考えるなら、対策を始めるのに早すぎるということはありません。ご自身とご家族の状況に合わせて計画的に対応していくことをお勧めいたします。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者3万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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