1.はじめに
7月の大統領選挙前後から回復の動きを見せていたメキシコペソは、自国通貨安とインフレ率上昇の阻止を企図した相次ぐ政策金利の利上げ期待とNAFTA再交渉の合意を背景に堅調でした。
しかし、10月に入ってから上下に値動きが荒くなっています。チャート上は投資妙味がありそうですが、メキシコにはまだ楽観的になれないリスクが存在するのです。
本コンテンツでは、今後のメキシコペソの動きを予測するためのポイントをご紹介します。
2.最大のプラス項目:NAFTA交渉妥結、USMCAへ
8月27日、アメリカとメキシコは懸案だった北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の2国間協議に合意したと発表しました。
その後、アメリカはカナダとの協議を再開し、9月30日に両国の合意とともにNAFTAに代わる新しい貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)について発表しました。USMCAは2020年1月1日に発効する予定です。
NAFTA再交渉における主要論点を2つ挙げると、①協定の有効期限および見直しのタイミング、②自動車の関税ゼロを維持する条件としての原産地規則(ある製品がどの国の製品であるかを決定する規則)の見直しです。
この2点についてUSMCAでは、①有効期間は16年・原則6年ごとに見直し・各国が次の16年間の更新意思を示さない場合は協定失効、②域内の自動車関税をゼロとするには原産地比率を現行の62.5パーセントから75パーセントに引き上げること、さらに生産工程・生産比率のうち40パーセントから45パーセントを時給16米ドル以上の労働者ないし工場によるものとすることなどを定めています。
この他、完成車の生産者に対して特恵関税の適用を受ける条件として鉄鋼・アルミの70パーセントを北米域内で調達することを義務付けています。
NAFTA交渉の結論を危ぶむ声が多かった中で、アメリカとの関係改善を象徴付けたものでもある今回の合意は大きな成果です。
3.最大のマイナス項目:地政学リスク
2018年10月18日、トランプ大統領はホンジュラス共和国やニカラグア共和国などからアメリカへの移住を目指して北上している数千人に上る人々の移民流入を阻止するために、アメリカ軍をメキシコ国境に配備するとツイートしました。
地理上、メキシコはアメリカに移住を希望する中央アメリカ諸国の難民にとって通路のような位置付けです。そのメキシコに対してトランプ大統領はメキシコがアメリカへの移民流入を止めることができないのであれば、軍を動員してメキシコとの国境を閉鎖するとまで発言したのですから、改めてメキシコの地政学リスクを懸念した市場参加者によりメキシコペソは売り込まれる動きとなりました。
もっとも、移民問題という地政学リスクは今に始まったことではありません。しかし、この出来事はメキシコにおける移民問題の根深さと解決の難しさを改めて印象付けるものであり、市場参加者も懸念を持っていることが浮き彫りとなりました。
4.今後のメキシコペソの動きを予測するポイント
USMCAの合意に象徴されるアメリカとの関係改善、政策金利引き上げを中心とする市場参加者の期待に応えた金融政策の推進など、一時期に比べればメキシコペソの下押し圧力は明らかに低くなっています。
しかし、総合消費者物価指数(CPI)がメキシコ中央銀行の前年同期比目標値である3~5パーセントに対し9月の数値は5.02パーセントと、依然としてインフレ懸念は残っています。
また、すでにメキシコからアメリカに輸出される自動車の70パーセント超はUSMCAにおける原産地比率の規制をクリアしていることから、USMCAに合意したといっても内需・外需の両面でメキシコ経済に与えるプラスの影響がどの程度のものか注視しておく必要があります。
そして、もっとも留意しておくべき点は10月18日のようなトランプ大統領の過剰反応による突発的な地政学リスクの高まりです。
5.まとめ
地政学リスクの高まりが拭い切れない現状を考えると、メキシコペソは荒い値動きを続けると考えられます。そして、結局のところメキシコペソの動向はアメリカに左右されると言っても過言ではないことを忘れないようにしてください。