1.はじめに
2018年10月29日、ドイツのメルケル首相は自ら党首として率いるドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)が12月に実施の党首選挙に出馬しないことを表明し事実上の党首辞任、そして首相職には留まるものの任期満了後は政界を引退する意向であることを発表しました。
もともとドイツ首相の職務は2021年に任期満了となるため、CDU党首としても今回が最後の任期ではないかとの見方が大勢でしたが、このタイミングにおける事実上のCDU党首辞任の発表はユーロ圏のみならず世界を驚かせました。本コンテンツでは、メルケル首相のCDU党首辞任の背景とこれを受けた今後のドイツをはじめとするユーロ圏についての見通しを展開します。
2.なぜ、このタイミングで辞任発表なのか
直接的な要因は、10月に行われたドイツの地方選挙における連敗との見方が有力です。14日にバイエルン州、28日にヘッセン州で行われた州議会選挙では、いずれもCDUは大きく議席を減らす結果に終わりました。また、2019年秋にはザクセン州などの旧東ドイツ3州で州議会選挙が予定されており、これ以上のドイツ社会民主党や極右政党「ドイツのための選択肢」などの伸長を抑えたいという党略も伺えます。さらに、2019年5月には欧州議会選挙も控えています。
CDUの視線は来年以降の選挙に向かっており、移民問題などで評判を落としつつあったメルケル氏では挽回が難しいと判断したのでしょう。したがって、CDUにとって今回の州議会選挙連敗は責任を取る形でメルケル氏をCDU党首から退かせる良いタイミングだったと考えられます。
3.ドイツのマーケットはどうなる?
本件の発表があった当初、「メルケル氏は首相を辞任する」との誤解がマーケットに広がり、短期的ではあるもののドイツ国債利回り上昇、ユーロ安の動きが見られました。ドイツは財政拡大政策や金融緩和策が中心の他の先進国と異なり、緊縮策による財政状態の正常化が進んでいます。
メルケル氏が首相を辞任することで、この流れが崩れるかもしれないと投資家が危ぶんだことから、ドイツ国債とユーロが売り込まれたのでしょう。しかし、12月に予定するCDU党首選挙の3名の候補者はメルケル氏と同様に財政緊縮策を支持すると予想されるため、メルケル氏が党首を辞任したからとはいえ現在の路線が崩れることは考えにくいでしょう。
したがって、メルケル氏のCDU辞任によるドイツの財政状態悪化の可能性は低いと考えられます。
もっとも、CDU党首選挙の候補者にはカレンバウアー氏やメルツ氏のように、移民問題などでメルケル氏の路線とは逆の考えを持つ人もいます。
12月以後のドイツは、与党党首と首相が別人物という異例の「ねじれ状態」になります。ここで反メルケル氏のカレンバウアー氏やメルツ氏がCDU党首となった場合、政情の不安定化が予想されマーケットにも少なからず影響が及ぶと考えられます。
4.今後の注目ポイント
CDU党首選挙も然りですが、目先は11月14日に公表を予定しているドイツの7-9月期GDP(国内総生産)です。この数値を受けたマーケットの反応が、メルケル氏のCPU党首辞任と2021年までの首相職継続に対する市場参加者の期待あるいは失望を示すものになるでしょう。アメリカと同様に、ドイツの7-9月期GDPはゼロ成長となる見方が多いため、特に注目です。
5.まとめ
今回のメルケル氏のCDU党首辞任は、短期的にはドイツひいてはユーロ圏内のマーケットに大きな影響を及ぼすものではないと考えられます。むしろ、メルケル氏が数年以内にドイツおよびユーロの政治から退くことが確実となったことから、それまでに中・長期的にはユーロで次期メルケルを狙うといわれるフランスのマクロン大統領の言動にも関心を払っておきたいところです。