2025
10/09
経済・マーケット 資産運用 マーケット情報 タイミング

2025年は世界の金融市場にとって「転換点」といえる年になっています。米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測が強まる一方で、インフレは完全には収束せず、政策の舵取りは難航しています。欧州ではエネルギー供給不安と景気減速が重なり、企業収益や消費に陰りが見えています。日本は長年の超低金利政策から徐々に出口を模索し、国債市場や為替に新たな動きが出始めています。

このように、地域ごとに異なる課題を抱える中で、富裕層の投資家に求められるのは「自らの資産をどのように守り、同時に成長させるか」という視点です。特に数億円規模の資産を保有する層は、単なる市場の短期変動ではなく「長期的にどのような資産配分を取るべきか」を判断する必要があります。本稿では、2025年10月時点での株式・債券・為替・不動産市場の最新動向を整理し、富裕層の資産運用に求められる具体的な戦略を考えます。

世界経済の概況:分断と成長の二極化

2025年の世界経済を一言で表すなら、「成長の二極化と金融政策の分断」という表現が適切でしょう。各地域で成長率や物価動向が大きく異なり、主要中央銀行の金融政策も足並みがそろわない状況が続いています。結果として、資本の流れは一方向ではなく複雑化し、国際金融市場はボラティリティが増しています。富裕層にとっては単に世界経済の平均値を見るのではなく、「どの地域に資金を置くか」によってパフォーマンスが大きく変わる環境が広がっているのです。

米国経済

米国は依然として世界経済の牽引役ですが、その成長ペースは徐々に鈍化しつつあります。労働市場ではトランプ大統領による移民抑制政策の影響もあり、雇用者数の伸びが抑制され、失業率は小幅ながら上昇傾向にあります。また、賃金上昇率もピークアウトしてきており、消費者の購買力はやや落ち着きを見せています。これによってインフレ圧力は緩和され、コアインフレ率も前年比で低下傾向を示しています。

こうした状況を受けて、FRBは9月のFOMCで利下げを実施し、更に2025年後半から2026年にかけて段階的な利下げに動くとの観測が強まっています。株式市場はその期待を先取りし、S&P500やNASDAQは高値圏を維持しています。しかし、企業の利益成長率はすでにピークを過ぎており、バリュエーションは歴史的に見ても割高です。つまり「金融緩和期待で株価は支えられているが、実体経済の成長が追いついていない」という構図です。投資家にとっては、米国市場全体への過度な依存はリスクとなり、セクター分散やテーマ投資の重要性が一層高まっていると言えます。

欧州経済

欧州は依然としてエネルギー価格に翻弄されやすい体質を抱えています。ウクライナ情勢の長期化や中東の不安定化は、ガス・石油の供給リスクを高め、企業コストや家計負担を押し上げています。これにより製造業や消費関連指標は弱含み、景気減速の影響が鮮明になっています。

ECBはインフレ抑制を最優先とする姿勢を維持していますが、景気悪化が深刻化すれば政策スタンスを緩和方向に転じざるを得ない可能性もあります。すでに一部では早期利下げ議論が浮上し始めており、「金融引き締めを続けるべきか、それとも景気を下支えすべきか」という難しい判断を迫られています。富裕層の視点では、欧州は株式市場のリターンよりも選別的な不動産投資やインフラ関連投資など、安定的キャッシュフローを生む資産への投資が注目される局面といえるでしょう。

日本経済

日本では30年ぶりといえる持続的な賃上げが実現しつつあり、物価の上昇も一過性ではなく定着の兆しを見せています。これまで長らく続いたデフレマインドからの転換がようやく進みつつあり、消費や企業投資にポジティブな影響を与えています。その一方で、日銀は緩和政策の出口戦略を模索しており、国債利回りは上昇基調を示しています。また、景気下支えのための積極財政期待の高まりも、利回りの上昇に拍車をかけています。

国債市場は、ここ数年で経験したことのないボラティリティを抱え、金融機関や大口投資家のポートフォリオにも大きな影響を与えています。長期金利が1%を超えて上昇したことで、かつては無視されていた国内債券投資が再び選択肢として浮上していますが、これに伴い不動産や株式との相対的なリスク・リターン評価も変化しつつあります。「日本の低金利環境は永遠に続く」という神話が崩れつつあることを認識し、資産配分を再考する必要があります。

また、日本経済において重要な点は、先の自民党総裁選では事前予想を覆して高市早苗新総裁が誕生したことです。高市氏は、成長と安全保障を両立させる積極財政を掲げており、AI・半導体・バイオなどの戦略分野への公的投資を拡大し、国家の危機管理や経済安全保障を強化する方針です。更に、金融政策では、日銀との協調を重視し、急速な利上げを避けて緩和的環境を当面維持するとみられます。これにより、企業投資や株式市場には追い風となる一方、財政拡張路線が行き過ぎれば国債金利上昇や市場の信認低下を招くリスクもあるなど、両方の要素を兼ね備えています。

株式市場の動向

米国株

米国株式市場は2025年10月時点においても強気基調を保っています。背景には、FRBが利下げに踏み切り、今後も更に段階的に利下げを進めていくとの観測が広がっていることがあります。政策金利がピークアウトしたとの安心感が投資家心理を支えており、資金は引き続き株式市場に流れ込みやすい状況です。

特に注目されているのは成長テーマです。AIの進展は依然として企業業績や投資家期待を牽引しており、半導体やクラウド関連企業には旺盛な資金流入が見られます。特にNASDAQを中心としたハイテク株の強さは健在であり、成長分野に集中する投資スタイルは短期的には奏功しているように見えます。

しかし、その一方で市場全体には割高感も漂っています。S&P500の予想PERは20倍前後と、過去10年の平均水準を上回っており、金利環境の変化や業績の下振れがあれば調整が起こりやすい水準にあるといえます。加えて、企業利益の成長率は2023〜2024年に比べると鈍化しており、「株価だけが先行して高止まりしているのではないか」という懸念も強まっています。金融政策が期待ほど緩和的にならない場合や、関税による消費の減速が鮮明になった場合には、ハイテク株を中心に急落するリスクも考えられます。

こうした状況を踏まえると、投資家が取るべき戦略はインデックス全体への無差別な投資ではなく、より緻密なセクター選別です。短期的な期待先行のテーマ株ではなく、景気循環に左右されにくい医療テクノロジーやインフラ関連、ディフェンシブ性を持つ生活必需品やヘルスケアなどは、安定的な収益が見込めるためポートフォリオに厚みを与える資産として適しています。また、AIや半導体のような高成長分野は、全体資産の一部に限定して保有し、リスク許容度に応じた比率で組み込むことが望ましいでしょう。つまり、富裕層に必要なのは「攻め」と「守り」を意識した二層構造の米国株投資であり、将来の成長力と安定性の両方を組み合わせることです。

日本株

日本株市場も、2025年に入り大きな注目を集めています。日経平均株価、TOPIXともに史上最高値を更新しています。背景には、企業収益の改善やコーポレートガバナンス改革の進展があります。ROE(自己資本利益率)の改善や株主還元姿勢の強化は、海外投資家にとって日本市場を魅力的に映す要因となっています。さらに、インフレ基調定着と賃上げによる国内消費の底上げも追い風となり、これまで「割安」とされてきた日本株に再評価の流れが起こっています。

ただし、リスク要因も存在します。最大の不確実性は為替です。円高が進行すれば輸出依存度の高い企業にとって収益圧迫要因となり、日本株全体に逆風が吹くことになります。また、世界的な景気減速が鮮明になれば、輸出産業や景気敏感株は大きな影響を受けざるを得ません。つまり、日本株市場の強さは外国人投資家の資金フローに大きく左右されるため、為替相場や海外経済動向を無視した投資は極めて危ういといえます。

こうした状況下で注目すべきは、キャッシュフローの安定性や配当利回りの高さが期待できる銘柄群です。安定配当株や高配当株は、株価変動が激しい局面でもインカム収入を確保できるため、資産全体の安定性を高めます。また、社会インフラや再生可能エネルギー関連株、物流施設を保有する不動産株も、比較的長期的に安定した収益基盤を持つことから魅力的です。特に日本のリート市場は、金利動向に影響を受けつつも、賃料収入の安定性や都心部不動産の希少性によって底堅さを示す傾向があります。

日本株投資においては、「外国人投資家の資金流入に押し上げられる局面」と「円高や景気減速で売られる局面」が交互に訪れると考えられるため、中長期的に安定的なリターンを狙うのであれば、為替ヘッジを組み合わせた戦略や、景気敏感株とディフェンシブ株を併用する戦略などが求められます。全体をインデックスでカバーしつつ、一部で高配当株やテーマ株を選別する「二段構えの投資」も有効です。

債券市場と金利の行方

米国債券市場

米国の債券市場は、世界の投資家にとって依然として最も重要な指標です。2025年に入り、10年国債利回りは一時4.5%を超える局面もありましたが、その後はFRBの利下げ観測が強まる中で市場金利上昇の勢いは抑えられています。利回りの低下はすなわち債券価格の上昇を意味するため、これまで債券を敬遠してきた投資家が再び市場に戻ってくる動きも見られます。特に金利のピークアウトを意識する投資家にとっては、「今こそ債券投資のタイミング」と捉えられる局面です。

しかし、この局面においても注意は必要です。インフレが完全に抑制されたわけではなく、原油価格や労働市場の動向次第では再びインフレ圧力が高まる可能性があり、その場合、長期債利回りが急上昇し、債券価格が下落するリスクがあります。つまり、単純に長期国債を一括購入する戦略は危ういということです。

こうした環境下で取り得る有効なアプローチは、償還年限を分散させた「バーベル戦略」や「ラダー戦略」です。バーベル戦略は、短期債と長期債を組み合わせ、短期での流動性と長期での利回り確保を両立させる方法です。一方、ラダー戦略では複数の償還年限を持つ債券をほぼ均等に購入し、金利変動リスクを平均化します。いずれも市場環境の変化に柔軟に対応できる方法であり、規模の大きな資産を運用する富裕層に適した戦略です。

さらに、米国債だけでなく、米ドル建て社債やモーゲージ債(MBS)といった多様な債券資産への分散も有効です。これらは米国金利の動向に影響を受けつつも、発行体や裏付け資産ごとの特徴を活かした収益機会を提供してくれます。ただし、社債やMBSは信用リスクや流動性リスクも抱えるため、発行体の格付けや市場環境を丁寧に吟味することが求められます。

日本債券市場

日本の債券市場は、転換期を迎えています。長らく続いた超低金利政策からの出口を日銀が模索しており、国債利回りは明確に上昇しました。10年国債の利回りは1%半ばまで達し、かつての「ゼロ金利」が常態化していた時代と比べ大きな変化です。

利回り上昇は、新規に購入を検討する投資家にとって魅力的な側面もありますが、同時に債券価格の変動リスクも大きくなります。特に長期国債は金利上昇局面で価格が大きく下落するため、慎重な姿勢が求められます。日本国債を大量に保有するよりも、優良企業の社債や地方債などへの分散投資が現実的です。こうした債券は国債に比べて利回りが高く、信用力が十分であれば安定した収益源となります。地方債は発行体の財政状況を精査する必要がありますが、長期的に安定したインカムを確保できる可能性があり、資産防衛の観点から組み込む価値があります。

さらに、インフレ局面では「購買力を守る」という観点が重視されます。名目金利が上がってもインフレ率がそれ以上に高ければ、実質的な収益は削がれてしまうためです。そのため、インフレ連動債や、インフラ債などインフレと連動しやすいキャッシュフローを持つ資産にも注目する必要があります。これらを組み込むことで、インフレリスクを緩和しつつ安定的なポートフォリオを構築できるのです。

為替市場とコモディティ

為替市場

2025年9月時点でドル円相場は145円〜150円のレンジで推移しており、方向感を模索する展開となっています。米国では利下げ観測が強まり、金利差縮小がドル安・円高要因として意識される一方、日本では日銀が利上げを検討する姿勢を強めており、こちらも円高圧力につながっています。長期的に見れば、円は購買力平価や実質実効為替レートからも依然として割安水準にあるため、中期的には円高方向に少し戻る可能性があるとする見方も少なくありません。

ドル建て資産を多く保有する富裕層にとって、この為替の動きは単なる背景要因ではなく、資産全体のパフォーマンスを大きく左右する重要なリスクです。そのため、為替ヘッジの導入を検討する必要があります。ただし、すべてをヘッジしてしまうとヘッジコストがかさみ、期待リターンを削ることになりかねません。現実的なのは、外貨建て資産の一部に限定的なヘッジをかける「部分ヘッジ」です。こうすることで、急激な円高リスクから一定程度守りつつ、円安が進んだ場合の利益機会も残すことができます。

また、近年はオプション取引を利用して為替変動を積極的に収益化する戦略も広がっています。たとえば「円高に振れたときだけ損失をカバーするオプション」を購入すれば、為替が安定的な局面ではコストを抑えつつ、防御力を確保できます。富裕層はリスク許容度に余裕があるため、為替を単なるリスク回避の対象とするのではなく、「リターンの源泉」として戦略的に活用する余地が大きいのです。さらに、複数通貨への分散も効果的で、米ドルと円だけでなくユーロやシンガポールドル、スイスフランといった通貨を組み込むことで、国際情勢や金融政策の変動に備えられます。

コモディティ市場

コモディティ市場は、地政学リスクや世界的な需給動向を背景に、株式や債券とは異なる値動きを見せる資産クラスです。特に原油価格は中東やロシアといった産油国の情勢に左右されやすく、需給バランスの微妙な変化で乱高下を繰り返します。2025年10月現在もエネルギー市場のボラティリティは高く、短期的な投機資金の移動によって急変動が起こりやすい状況です。

エネルギーに投資する場合、原油先物を直接取引するのではなく、エネルギー関連株や資源ETFを通じて間接的にエクスポージャーを持つ方が現実的です。これにより、リスクを限定しながらポートフォリオに分散効果を取り入れることができます。ただし、エネルギーは景気循環に左右されやすく、長期保有には注意が必要です。むしろ、景気後退期のヘッジや短期、中期的な分散資産として位置づけるのが妥当といえるでしょう。

一方、金(ゴールド)は再び上昇基調に入りつつあり、資産防衛の「保険」としての存在感を取り戻しています。特にドル安局面やインフレ圧力が強まる場面、さらには金融システムへの不安が高まる時期に、金は資産価値を守る役割を果たします。株式や債券との相関が低いため、ポートフォリオに一定割合組み込むだけで全体のリスクを引き下げる効果が期待できます。

また、金は価格変動が比較的緩やかで、長期的に見れば実質的な購買力を維持してきた資産でもあります。したがって、リターンを狙うというよりは「資産全体を安定化させるための調整役」として位置づけるのが適切です。資産全体の5%〜10%程度を金や金連動ETFに配分することで、予期せぬ市場ショックへの備えとなります。

不動産市場と代替投資

国内不動産

日本の不動産市場、とりわけ東京を中心とした都市部の高級住宅やオフィス物件は、依然として底堅い状況を保っています。都心の一等地に位置するマンションや高級住宅は、限られた供給量と海外投資家からの需要の強さが価格を支えています。特に円安局面では、海外から見た日本の不動産は「割安資産」と映りやすく、資金流入が続く傾向があります。こうした外資の存在は国内市場の価格形成にも影響を与えています。

一方で、金利の上昇が不動産市場全体に与える影響は無視できません。借入コストが上昇することでレバレッジを効かせた投資は収益性を損ないやすく、特にキャッシュフローが不安定な物件や賃料上昇余地の小さい物件はリスクが高まります。そのため、投資対象は「安定的な入居率を確保できるか」「将来的に賃料の増額が見込めるか」といった実質的な収益力で精査する必要があります。単なるキャピタルゲイン狙いではなく、安定した賃料収入を確保できる物件を長期保有する戦略が現実的です。

加えて、不動産市場では「用途転換型」の投資にも注目が集まっています。たとえば、古いオフィスをリノベーションして高級レジデンスに転用するケースや、物流需要の高まりを受けて郊外倉庫に転換するケースです。従来型の単純な不動産投資だけでなく、構造的な需要の変化を捉えた柔軟な戦略が求められています。

海外不動産

海外不動産市場は地域によって明暗が分かれています。米国では金利上昇と景気減速の影響を受け、オフィスや商業施設の稼働率が低下し、賃料水準も軟化しています。リモートワークの定着によりオフィス需要は構造的に減少しており、一等地以外の物件は価格調整が避けられません。欧州でもエネルギーコスト上昇や景気後退懸念が企業活動を抑制し、商業用不動産への投資環境は厳しさを増しています。

一方で、アジアでは依然として都市成長の勢いが投資を呼び込みます。特に東南アジアの新興都市やインドの都市部では、人口増加と経済成長を背景に住宅やオフィス、物流施設の需要が高まっています。加えて、デジタル経済の発展に伴いデータセンターや通信インフラ関連不動産も投資対象として注目されています。ただし、新興国市場は政治リスクや為替リスクが高く、長期的な視点でリスク許容度を吟味する必要があります。海外不動産に資金を投じる際は、「高成長都市における長期保有」か「成熟市場での安定収益確保」か、目的を明確にすることが不可欠です。

オルタナティブ投資

近年、富裕層資産運用において存在感を高めているのがオルタナティブ投資です。プライベートエクイティ(未公開株投資)、プライベートクレジット(非上場企業への融資)、ヘッジファンドといった伝統的なオルタナティブ資産はもちろんのこと、インフラファンドや再生可能エネルギー関連ファンドへの資金流入が加速しています。これらは流動性が低い反面、長期的に安定した超過リターンを狙えること、そして株式や債券と相関が低いためポートフォリオ全体のリスク分散に寄与することが大きな魅力と言われています。

特に注目すべきは、社会的インパクトを重視する投資の広がりです。再生可能エネルギー、教育、医療といった分野に資金を投じることで、社会課題の解決に貢献しつつ収益も期待できる「インパクト投資」は、富裕層にとって資産運用と社会的責任を両立させる手段となっています。また、インフラファンドは政府支援や長期契約に裏打ちされた安定キャッシュフローが魅力であり、資産の安全性とリターンのバランスを求める富裕層に適しています。

富裕層が取るべき資産運用戦略

富裕層にとって資産運用は単なるリターン追求ではなく、「資産を守りながら育て、次世代へ承継する」ための包括的な取り組みです。そのためには、伝統的な資産だけに依存せず、複数の投資対象を組み合わせた戦略的な配分が欠かせません。

まず重要なのは、資産全体をコアとサテライトに分ける視点です。コア部分には、株式インデックスや国債、優良企業の社債、安定したキャッシュフローを生む不動産といった比較的堅実な資産を据え、長期的に安定収益を確保します。そのうえで、サテライト部分に成長テーマ株やプライベートエクイティ、ヘッジファンドなどを組み込み、リスクを許容できる範囲でリターンを追求します。数億円規模の資産を持つ投資家にとっては、全体の安定性を損なわずに「余裕資産」で挑戦的な運用を行えることが強みです。

次に避けて通れないのが為替リスクへの対応です。海外資産を多く持つ場合、為替の変動がリターンを左右するため、円高局面に備えたヘッジ戦略が求められます。前述の通り、全額をヘッジしてしまうとコスト負担が大きくなりますから、一部だけを防御する部分ヘッジや、オプション取引を利用して急激な変動に備える手法が現実的です。さらに、ドルだけでなくユーロやシンガポールドルなど複数通貨に資産を分散することは、政治や金融政策の不確実性を和らげる効果をもたらします。

また、富裕層ならではの課題として流動性の確保が挙げられます。資産の多くを不動産や未公開株に偏らせてしまうと、緊急時に必要な資金をすぐに動かせない状況に陥る危険があります。理想的には資産全体の一割から二割程度を現金や短期債など即時換金できる形で確保し、市場急変時には安値で優良資産を拾えるよう備えることが望ましいでしょう。キャッシュは「眠らせるもの」ではなく、「次の投資機会をつかむための武器」として捉えることが重要です。

そして忘れてはならないのが相続と税務の観点です。資産を増やすことと同じくらい、最終的にどれだけ残せるかを意識する必要があります。不動産を活用した相続対策や信託の仕組み、生前贈与を組み合わせることによって税負担を軽減する方法は多様に存在します。さらに、資産管理会社を設立して法人化を進めれば、所得分散や経費活用によって効率的な資産運営が可能になります。海外に資産を持つ場合には、日本と現地双方の税制を調整することも不可欠であり、ここでは専門家の助言が大きな意味を持ちます。

このように、富裕層の資産運用は「増やす・守る・残す」という三つの要素を同時に満たすことが求められます。守りと攻めのバランスを可視化し、グローバルな視点で通貨や資産を分散させ、流動性を意識しながら長期テーマに参加し、さらに税務や相続までを包括的に設計する。これらを組み合わせることで、単なる資産維持ではなく、資産の進化と承継を実現できるのです。そして最終的には、IFAやプライベートバンカーと連携し、自身や家族のライフプランに合わせたオーダーメイドの戦略を築くことが、富裕層にとっての最大の資産防衛策となるでしょう。

まとめ

2025年10月のマーケットは、一見すると株式市場の強さが目立ちますが、その裏にはインフレ・金利・為替といった不確実性が横たわっています。富裕層にとって重要なのは「一方向に賭けること」ではなく、「多層的に資産を配置し、どのシナリオにも備えること」です。
株式ではテーマ選別、債券では期間分散、為替では部分ヘッジ、不動産ではキャッシュフロー重視、オルタナティブでは長期リターン源泉としての活用がし、これらを総合的に組み合わせることで、資産の安全性と成長性を両立できます。

本記事の著者

桒原純也
桒原純也 プライベートバンキング本部
ポートフォリオマネージャー
プロフィール
早稲田大学商学部卒業後、株式会社群馬銀行へ入社。富裕層と会社経営者を中心とした顧客のファイナンスや資産運用のコンサルティング業務に従事。顧客と一生涯続くような関係性を築きたいと思い株式会社ウェルス・パートナーに入社。
当社での役割
富裕層、会社経営者の資産配分最適化。
具体的な金融資産の投資実行サポート。
資産管理会社設立から相続対策など税務最適化。
特に医師の方への資産配分の最適化に強みを持つ。
超富裕層のインターネット企業創業メンバーに特化した新規顧客開拓。
マーケットやマクロ経済に関しての知見に強み。各所セミナー登壇中。
このアドバイザーに相談

<ご注意事項>

  • 当社の所属金融商品取引業者等は株式会社SBI証券、東海東京証券株式会社、エアーズシー証券株式会社です。
  • 当社は所属金融商品取引業者等の代理権は有しません。
  • 当社はいかなる名目によるかを問わず、その行う金融商品仲介業に関して、お客様から金銭および有価証券のお預かりを行いません。
  • 各商品等へのご投資には、商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります。各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等及びリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示又は契約締結前交付書面等をご確認ください。

[金融商品仲介業者]

商号等:株式会社ウェルス・パートナー

登録番号:関東財務局長(金仲)第810号

[所属金融商品取引業者]

商号等:株式会社SBI証券

金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第44号、商品先物取引業者

加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本STO協会、日本商品先物取引協会

商号等:東海東京証券株式会社

金融商品取引業者 登録番号:東海財務局長(金商)第140号

加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人日本STO協会

商号等:エアーズシー証券株式会社

金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第33号

加入協会:日本証券業協会

ご相談はこちらから
お名前*
お名前カナ*
メールアドレス*
電話番号*
第一希望日*
ご希望のお時間*
第二希望日*
ご希望のお時間*
面談場所*
ご相談を希望するアドバイザー
当日は代表の世古口が同席する場合がございます。
大まかな保有資産額を教えてください。*
ご年収を教えてください
当社を知ったきっかけ*
ご相談内容
利用規約*
上記でご入力いただいた内容は、当社からの連絡や情報提供などに利用するためのもので、それ以外の目的では使用いたしません。
また、その情報は、当社以外の第三者が利用することはございません。(法令などにより開示を求められた場合を除きます)
詳しくは、個人情報規約をご覧ください。
https://wealth-partner-re.com/policy/