はじめに
2020年1月3日、イラン精鋭部隊のカセム・ソレイマニ司令官が米軍に殺害されたことを受け、イラン側が5日に核合意を完全に離脱し、米国への報復をツイッターでほのめかしました。
2018年5月から中東情勢は悪化しており、米国側から宣戦布告ともいえるナンバー2の殺害が決行されました。
中東情勢は激化し、金融市場でも悪影響が出ました。
1月6日に世界的な中東情勢懸念によるリスク回避から、円買いの圧力が強まり、日経平均は-451円(-1.91%)となりました。
日本としては円高による経済への打撃が大きく、世界的にも懸念される経済的なリスクが高まっています。
そこで今回は、「イラン空爆はなぜ起きたのか」と「今後の経済はどうなるのか」について解説していきます。
イラン空爆の経緯
米国によるイランへの圧力は2018年5月から始まっていました。
2015年7月にイラン・イギリス・フランス・アメリカ・ドイツ・中国・ロシアが核合意に達していました。
核合意では、核に転用可能な濃縮ウランやプルトニウム、遠心分離機などの縮小が規約に盛り込まれており、7か国間で守られてきました。
また、イランは核合意に参加する代わりに米国による金融制裁や原油取引制裁を緩和する旨の取り決めを行いました。
しかし、濃縮ウランの貯蔵量に上限を設けたとしても原子爆弾を作れるのではないかという懸念や、弾道ミサイルの開発について規約が無いことについて、米トランプ大統領は批判し、2018年5月に核合意を離脱しました。
また、その後に米国がイランに対し経済制裁や軍事制裁を行い、中東情勢が悪化してきました。
このような経緯から、イランは2019年5月に核合意の規約を一部履行停止することを表明しました。
そして、両国の軍事力を使った制裁により緊張が高まった中、2020年1月3日にイランのナンバー2であるカセム・ソレイマニ司令官を空爆により殺害したのです。
米国側の主張は「戦争を始めるためではなく、止めるため」とのことですが、国際社会の見方としては2018年5月に無理矢理ともいえる米国の核合意離脱が元凶なのではないかという主張が強くなっています。
日本経済への影響
日本経済への影響はどのようなことが考えられるのでしょうか?
イランは核合意の一部履行停止を表明していましたが、1月6日に核合意から完全離脱すると発表し、ネットでは「第3次世界大戦の始まり」だと騒がれました。
日本の株価(日経平均株価)は2019年末に2万4000円近くまで推移し、好調な成長率を記録しました。
しかし、年明け最初の相場が-451円(-1.91%)となり、中東情勢の日本への波及が懸念されています。
スタグフレーション(不況+インフレ)の可能性
スタグフレーションとは、不況(失業率の上昇など)とインフレ(物価高騰)が同時に起きることを指します。
今回の中東情勢悪化で考えられることは石油価格高騰により、物流コストが上昇し、商品の価格に転嫁されて物価が上昇するという波及経路です。
日本は表面的には物価の上昇を目標としていますが、労働者の賃金が上昇しないと物価が上昇しても誰もモノ・サービスを消費しないので、単純に需要が落ち込むだけになってしまいます。
スタグフレーションの解決法
スタグフレーションは一般的なマクロ経済学では説明できません。
なぜなら、マクロ経済学では失業率と物価の関係をトレード・オフだとするフィリップスカーブが一般的に許容されているからです。
しかし、失業率も物価も同時に上昇するスタグフレーションは説明不可能なので、なかなか起きることはなく、解決策も乏しいという現状があります。
ただ、金融緩和・財政出動による一時的な措置が解決策として考えられますが、金融緩和にしても金利はマイナス金利が長期化しており、これ以上緩和すると金融システムが麻痺するシステミックリスクの懸念もあるため現実的ではありません。
また、2013年から現在まで行われている資産買い入れ額の拡大を行ったとしても、現状の日本の金融市場は政府の介入幅が大きすぎて、かえって後戻りできなくなります。
財政出動についても日本は世界で最も多く政府債務を抱えているため、思い切った政策はできないでしょう。
中東情勢悪化は日本経済に大打撃
中東情勢が現在の日本経済に波及してきた際は、かなりのダメージになると思いますが、それまでに国際社会でイランと米国の緊張状態を緩和しないといけません。
また、中東情勢悪化による日本経済の落ち込みはいち早く金融政策と財政政策の両輪で緩和していかなくてはなりません。
何よりも国際的に各国が歩み寄り自国民だけでなく他国民の利益も考えることが何より最適でしょう。