1.はじめに
新興国債券のリターンは、現地通貨建てベースでマイナスが続いています。主に地政学リスクの高まりを理由に多くの投資家が新興国債券への投資を手控えていますが、新興国全般の現状を把握すれば別の見方も出てきます。
2.新興国のファンダメンタルズは?
多くの新興国で、財政収支と国内債務には大きな懸念は残るものの概ね経済成長や財政収支・国内債務、対外収支・対外債務などの経済のファンダメンタルズは改善傾向にあります。
リーマンショック後の新興国全体における対外債務膨張を懸念する声がありますが、その膨張した債務のほとんどは中国かメキシコによるものです。大半の新興国の対外資産は対外債務を上回る規模を確保しており、現在有する外貨準備で対外債務を返済することは十分可能です。
3.共通したリスクは?
新興国の対外債務の多くが米ドル建てである中で、アメリカの金利上昇傾向とそれに伴う米ドル高は、米ドルの資金調達コストを引き上げる点で多くの新興国にとって完全にアゲインストです。
また、中国など一部の新興国では市場参加者が嫌う政府による介入主義政策が見られることと、メキシコやトルコ、アルゼンチンのように多くの国で政治リスクが高まっていることが市場参加者に強く不安視されています。
これに加えて最近勃発した米中貿易戦争が、中国の周辺国にどのような影響を及ぼすかについて見通しが立たないことも懸念材料です。
4.特に注意を要したい国は?
トルコとアルゼンチンについては、引き続き十分な警戒が必要と考えます。この二国に共通するのが対外債務の大きさに比して外貨準備が少なく、経常赤字が外貨準備不足に拍車を掛ける対外的不均衡が顕在化していることです。
特に外貨準備の深刻な不足は、国際通貨基金の早急な支援が必要との声も大きくなっています。さらに国内でも経常赤字に端を発する需給不均衡のためインフレ率が上昇傾向にあります。
5.今後の戦略は?
新興国債券への投資を検討するに当たっては、当然にアメリカの金利動向や米ドルレートを考慮する必要があります。特に新興国通貨に対する米ドルレートは新興国の成長と密接な関係にあることから、特に注意が必要です。
そのような中でアメリカのイールドカーブはスティープ化しており、米ドルのレートも多方面で安定しつつあります。つまり新興国の多くは米ドルの調達についてのハードルが低くなってきたということです。
さらに多くのエコノミストの間で、現在の新興国とアメリカとの金利スプレッドが新興国の地政学リスクやアメリカの金利および為替動向の見通しを踏まえると概ね妥当かやや過剰気味であるとの声が多数ということを前提とすれば、新興国債券への投資は妙味があるものと考えられます。
例えばインドなどのように昨今続いた米ドル高に対して大きく売り込まれたと考えられる債券は魅力的です。
もっとも、新興国であれば何でも良いというわけではなく、低格付けでも経済面で対外依存度が低く合理的な政策を採っている国々に限定されます。
この点で、先述したトルコとアルゼンチンは他の新興国と比べて際立った脆弱性と不安材料があることから、ポートフォリオに加えることはお勧めできません。しかし、この2国にファンダメンタルズの正常化に向けて何らかのポジティブな材料が認められた場合は、新興国債券へのウェイトは一層高めてよいものと考えられます。
なお、昨今の中国やメキシコへの対応にもある通り、トランプ大統領の極端な対外政策は新興市場のボラティリティを高めるものということは忘れないようにしてください。
6.まとめ
以上のように、投資先さえ選別すれば現在は新興国債券への投資に良いタイミングではないかと考えています。ファンドを選ぶ際は、カントリーアロケーションとアメリカの金利・為替に対するリスク感応度などに十分に注意してください。