はじめに
2018年7月の国会で改正民法が成立しました。今回は約40年ぶりの大幅改正です。
その中の目玉は2020年4月に施行されることが決まった「配偶者居住権」です。
相続発生後の配偶者の生活を保障するために設けられた本制度について解説します。
(1)配偶者居住権とは
「配偶者居住権」とは、被相続人が亡くなり相続が発生した際に、相続人である配偶者が、住み慣れた自宅で生活し続けることができるようにするための権利です。
配偶者居住権の創設により、居住権と所有権が区分されるようになりました。所有権は居住建物の処分などができる権利であるのに対して、居住権とはその居住建物を使用する権利のことを言います。
そのため居住権を配偶者が得たとしても、所有権を別の人が保有している場合、所有者の承諾なしには第三者に物件を売却できません。
また増改築や第三者の使用も所有者の承諾が必要です。
また配偶者居住権は賃借権のような性質をもちますが、賃借権のような期間の定めはなく、配偶者が生きている間はずっと有効です。
配偶者居住権ができた背景には、近年の高齢化の進展があります。高齢化が進む中で配偶者が亡くなった後の生活を保障していく必要が高まってきています。
これまでの民法では居住権と所有権が区分されておらず、相続が発生すると住み慣れた自宅を売却し現金化した上で相続人に分配しなければならない場合や、自宅不動産を相続しても現金を手にすることができず生活に困るという事例も発生していました。
こうした問題を解消し、相続が発生しても、もう一方の配偶者が安心して生活できるように配偶者居住権が創設されました。
(2)具体的なケース
具体的なケースを考えてみましょう。
自宅不動産2000万円・現金2000万円の資産を配偶者と子供で相続します。
従来では、配偶者が自宅不動産に住み続けたい場合は
配偶者・・・不動産2000万円
子供 ・・・現金2000万円
という分け方になり、配偶者は自宅に住み続けることはできるものの、現金を相続することができません。
反対に、配偶者が現金を相続すると、自宅に住み続けることが難しくなります。
今回の配偶者居住権の創設により、配偶者が自宅に住み続けたい場合は
配偶者・・・配偶者居住権1200万円
現金 800万円
子供 ・・・不動産 800万円(負担付)
現金 1200万円
というような相続が可能になり、配偶者が安心して生活するための住居と現金を確保することができます。
(3)配偶者居住権の要件・注意点
配偶者居住権が成立するための要件としては
①被相続人が所有する不動産
②相続開始時点で配偶者が居住していた
ことが要件です。
①では共有名義では成立しません。
配偶者所有権の取得は下記の場合になります。
・遺産分割協議書に「配偶者居住権」の取得が明記されている
・遺言で「配偶者居住権」の取得が明記されている
・家庭裁判所による審判で「配偶者居住権」が認められる
配偶者居住権の付いている物件の所有者には、登記が義務付けられています。
第三者が取得した際に居住権が付いていることを証明するためにも登記を行わなければなりません。
配偶者居住権の設定されている物件の評価額は、設定されていない物件に比べ評価額が下がります。居住権の価値の分だけ下がることになります。
配偶者の死亡により権利は消滅します。そのため二次相続が発生した場合には、相続評価額は上昇する可能性があります。上昇した部分に対する相続税の課税については現時点ではどうなるのかは不明です。
まとめ
高齢化社会は急速に進展し、高齢者の数は増え続けています。
高齢者夫婦の暮らす老世帯だけでなく、片方の配偶者を亡くした独居世帯も増加が予想されます。
今回の民法改正および配偶者居住権の創設では、こうした高齢者が安心した生活を送るための環境づくりが一歩進んだと言えるでしょう。