こんにちは。株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口です。
トランプ新政権がはじまって4カ月くらい経ちました。その間にも高い関税を打ち出し、それによりアメリカの株式市場や世界の株式市場が大きく上下しました。債券や金利もかなり乱高下し、打ち出す政策は実体経済や市場に大きく影響しました。
今まで長い間「アメリカに投資しておけば間違いない」という状況が続いていたのですが、ここにきて「大丈夫かな?」と思いはじめている富裕層の方も増えています。当社も富裕層の方からそういったご相談を受ける機会が増えてきました。
今回は米国に不安を抱かれる富裕層の方に「アメリカだけでなく、それ以外の国、資産にどのように分散して投資しているのか(賢い富裕層の方の分散投資法)」をお伝えできればと思います。
目次
富裕層の分散投資法|当初の資産配分
分散投資法を実例で説明します。
まずは分散投資する前の資産状況について見ていきましょう。
こちらの富裕層のお客様は50代前半の男性、会社売却富裕層の方です。ご家族は奥様とご長男様がいらっしゃいます。
ご職業は会社経営者様です。もともと会社のオーナーとして仕事をしていらっしゃいましたが、こちらの会社を売却し、現在は雇われ社長になっています。ただ、1年後はこの社長の仕事からも退く予定です。年収は3,600万円ですが、こちらも減額予定になっています。
国内不動産(自宅)を所有しています。
当初の資産配分
資産は現金預金が6.2億円あります。こちらの現金預金はほぼ会社売却代金です。会社売却代金はすべて残っており、投資などはしていません。投資についてはほぼ未経験になっています。
現金預金の他には2.1億円の価値の国内不動産があります。この国内不動産はご自宅です。
資産運用へのご要望
こちらのお客様の資産運用・投資・資産の再配分に対するご要望は4つありました。
- 会社売却代金(5.7億円)を有効活用したい
- 偏りの少ないバランスの良い資産配分にしたい。ひとつの資産にばかり投資すると、それがダメになったときのリスクが大きい。いろいろなものでバランス良く運用したい(リスク分散重視)
- 「アメリカが絶対ではない」という考えを持っている。アメリカがダメになる可能性もある。米国以外の資産や通貨にもしっかりリスク分散したい(今回のポイント)
- 年収が大幅に減額される。役員収入に代わる定期収入(インカムゲイン)を増やしたい
富裕層の分散投資法|資産の再配分後
こちらが資産再配分後のシートになります。
ご要望通り会社売却代金5.7億円を使って次のような資産に配分しました。
- 日本株式:2,000万円
- 先進国株式:6,500万円
- 新興国株式:1,500万円
- 先進国債券:2.1億円
- 新興国債券:1,500万円
- 外国REIT:1,500万円
- オルタナティブ:7,000万円
- 国内不動産:3.8億円
- 国内ローン:2.5億円
- コモディティ金:3,000万円
今回の資産配分では「米国以外の資産にどのように分散するのか」がポイントになってきます。
この資産の配分からさらに細かく具体的な投資対象や通貨、米国に依存する資産・しない資産について説明していきます。
資産クラスごとの投資対象や通貨
具体的な投資対象や通貨、米国に依存する資産・しない資産などについては詳しい表を作りました。
こちらの表を参考に説明できればと思います。
なお、表の一番右側にある「米国以外」のところは最後に説明しますので、まずはそれ以外のところを順番に説明します。
日本株式
投資対象は日本株のインデックスファンドです。通貨は日本円で、投資金額は2,000万円です。
こちらは完全に米国以外への投資になります。
先進国株式
次に先進国株式です。
先進国株式と言うと、ほぼ米国株のような印象を持っている方もいらっしゃるかもしれません。
先進国といっても他にいろいろな国があります。本来であれば米国株以外のユーロ圏やそれ以外の先進国の株にも投資するのがいいかなと思いますので、このように投資対象を分けているわけです。
実例では3つの株式に投資しています。
- 外国ETF(米国株)/ 米国株への投資で通貨は米ドル。投資金額は2,000万円
- 外国ETF(ユーロ圏株)/ ユーロ圏の先進国の株式。通貨は米ドルで1,500万円
- ヘッジファンドA(世界の株式に投資)/ 割合的には米国株への投資が多いが、それ以外の国の株式にも投資している。通貨は米ドルで投資金額は3,000万円
先進国の株式と言えば米国株だろうと思うかもしれませんが、このように本来だと米国株だけでなく、先進国のいろいろな国の株に投資するのが大事ではないかと思います。分散になりますので。
新興国株式
新興国株式はインデックスファンドに投資しています。
通貨は円で投資金額は1,500万円です。
先進国債券
次は先進国債券です。
先進国債券も米ドル建ての債券が割合としては多いのですが、この方のように分散投資を重視していろいろな国、通貨の債券に投資したいという方ですと、やっぱり米ドル以外の通貨の債券にも投資するわけです。
先進国債券の具体的な投資対象は、まずは米ドル建て債券で、こちらに1.6億円投資しています。通貨は米ドルです。
この他にユーロ建て債券に3,000万円、豪ドル建て債券に2,000万円投資しています。通貨はそれぞれユーロと豪ドルです。
米ドルだけでなく、ユーロや豪ドルなどにも投資する。分散投資だとこのようにやっていくのが一般的なのではと思います。
新興国債券
新興国債券は新興国の通貨建ての債券です。
今回はブラジルのレアル建ての債券に投資しています。
通貨はレアルで、投資金額は1,500万円です。
外国REIT
外国REITは米国不動産へ投資している外国ETFへの投資です。
通貨は米ドルで、完全に米ドルの資産になっています。
投資金額は1,500万円です。
オルタナティブ
オルタナティブへの投資は全体配分で7,000万円になっています。割合としては結構大きいです。
投資対象は3つです。
- ヘッジファンドB(マクロ戦略)
- ヘッジファンドC(アービトラージ戦略)
- 暗号資産(BTC中心)2,000万円
ヘッジファンドBはマクロ戦略を取っており、通貨はユーロ建てです。投資金額だと2,500万円になっています。
ヘッジファンドCは、アービトラージ戦略です。鞘取り戦略と言いますけど、これは結構珍しい通貨でスイスフランになっています。投資金額は2,500万円です。
その次がオルタナティブの代表格、暗号資産です。暗号資産はビットコイン中心に投資していまして、投資金額は2,000万円配分しています。
このオルタナティブというのはヘッジファンドとか暗号資産とかに投資することが基本的には多いのではないかと思います。
一般的には株式や債券などのコア資産の割合が多いです。分散重視の方がそれ以外の資産に分散する場合、このオルタナティブに今回のように投資することが多いのではないかと思います。
国内不動産
国内不動産は、具体的には都内の1棟築浅RCマンションに投資しまして、当然日本円で投資しています。
頭金は1.3億円分出しています。そのまま1.3億円投資しているイメージです。
コモディティ金
最後はコモディティ金で、こちらはアクティブファンド(金連動・為替ヘッジ)への投資です。金に連動する為替ヘッジをつけたファンドになっています。
金のファンドは基本的に米ドル建てで投資することが多くなっています。そのため、金に投資しているのに、米ドルの上下に左右される、為替リスクを実は取っているのです。ですが、米ドルのリスクを取らずに為替ヘッジをかけて純粋に金の上げ下げの連動になるようなファンドがありますので、それに投資するかたちになっています。そうすると通貨は円建てというイメージになります。
こちらの通貨は日本円で投資金額は3,000万円という配分です。
分散投資のポイント
投資と言うと主にアメリカの株や債券、通貨、米ドルに投資するというイメージがあるかもしれません。
この富裕層の方のように「米国以外にもしっかりリスク分散したい」というリスク分散重視の方だと、このようにリスク分散することもできるわけです。
「株式=米国株」という印象は強いかもしれないのですが、資産クラスの段階で日本株式もありますし、新興国株もあります。先進国の株式も米国株だけでなく、ユーロ圏の株式などもあります。それ以外の先進国の国の株式に投資することも可能です。当然それらにも分散すべきですし、債券においても同じです。
債券も米ドル建ての債券が中心になることが多いのですが、それだけではないわけです。ユーロ建てや豪ドル建て債券、新興国債券もありますので、分散を重視するのであれば、そういった債券にも投資するということがいいのではないかなと思います。
あとはオルタナティブです。
分散ということを念頭に置いている方だと、オルタナティブの役割が重要になるかなと思います。
株式や債券に連動しないヘッジファンドのような資産があります。そういったファンドは結構いろいろな通貨で発行されていますので、今回のようなユーロ建てとか、スイスフラン建てとか、そういった通貨で投資するいいチャンスです。
通貨分散や資産分散にも起用します。株や債券に連動しない資産がこういったヘッジファンドに多いですから、分散にはもってこいということです。
今の時代だと暗号資産にもしっかり分散するということがいいかなと思います。暗号資産にはこの実例くらいは配分するのがいいのではないかなと思います。
あとは、分散の代表格である金です。リスク分散を強く考えている方だと、やはり金にも投資した方がいいのではないかなと思います。
5.7億円に占める米国以外の資産
5.7億円の資産を再配分して、その中に占める米国以外の資産はどのくらいになるのかをカウントしたのが表の一番右側です。
資産の中に占める米国以外の資産は次のようになります。
- 日本株式:2,000万円
- 新興国株式:1,500万円
- 先進国債券:ユーロ建て債券/3,000万円、豪ドル建て債券/2,000万円
- 新興国債券:レアル建て債券/1,500万円
- オルタナティブ:ヘッジファンドB/2,500万円、ヘッジファンドC/2,500万円、暗号資産/2,000万円
- 国内不動産:1.3億円(頭金)
- コモディティ金:3,000万円
米ドル建ては米国の資産と考えて除外しています。
米ドルとは関係ない日本円やスイスフラン、ユーロ、レアルなどをカウントすると、合計で3.3億円になっています。5.7億円のうち3.3億円が米国に関係のない資産ですから、割合としてかなり大きくなっているわけです。
資産配分に占める割合は大体57%になっています。
これくらい(資産クラスの中の投資対象も)いろいろなものに分散すると、投資した金額のうち57%くらいは米国以外の資産にすることができますので、万が一アメリカに何かあったとしても大事に至らないようなリスク分散が十分にできていると言えるのではないかと思います。
米国不安の今、賢い富裕層が実践する分散投資法|まとめ
今回のテーマ「米国不安の今、賢い富裕層が実践する分散投資法」についてまとめたいと思います。
ポイントは4つです。
ポイント①米国以外の株式や債券、通貨にも分散投資
米国不安への対処法なので、米国以外の債券や株式、通貨にも分散投資するということが大事な考え方ではないかと思います。
卵を1つのカゴに盛らないという投資の原則をしっかり徹底していくことが1つ目のポイントです。
ポイント②アザー外貨はユーロ、豪ドル、フラン等が定番
外貨の中心は米ドルです。米ドルを通して投資することが金融資産だと中心になります。
ただ、それ以外の外貨(アザー外貨、セカンド外貨、サード外貨)に分散することも大事です。
米ドル以外のアザー外貨の中心、定番というのは、ユーロや豪ドル、スイスフランです。こういったものが定番ではないかと思います。
先ほどの実例でも米ドルには2.4億円くらい投資していました。それ以外の豪ドルやスイスフラン、レアル、ユーロなどにどれくらい投資しているかと言うと、全体で1.1億円(×と1,500万円)投資しているので、米ドルの半分くらいはアザー外貨に投資している計算です。
米ドルの半分くらい投資していると、分散の効果が効いてきます。分散重視で資産配分を組まれるという方は、このような通貨に投資することも大事ではないかと思います。
ヘッジファンドは米ドル建てが多いですが、実は米ドル以外の外貨で投資できるファンドも多いです。ヘッジファンドはヨーロッパが結構多いからです。なので、ユーロ建てのファンドやスイスフラン建てのファンドなど、原通貨がユーロやフランのものが実は多かったりします。
そういったヘッジファンドに投資することで、米ドル以外の外貨に投資できます。アザー外貨のヘッジファンドに投資するのも考え方のひとつではないでしょうか。
ポイント③分散重視ならHF、暗号資産、金にも配分
分散重視ならヘッジファンドや暗号資産、金にも資産配分するのがいいのではないかと思います。
先ほどの実例でも合計1億円くらいはヘッジファンド、暗号資産、金に配分しています。
これくらい投資すると分散効果が十分出てきますので、とにかくリスク分散重視という方であれば、これぐらいこちらの資産にも分散するのがいいのではないかと思います。
ポイント④万が一に備えるのがリスクマネジメント
誰も本気でアメリカの経済が崩壊したりとか、財政破綻したりとか、そういったことが起こるとは思っていないわけです。それが起こるのは極めて確率が低いことであるというふうに考えていて、私もそう考えています。
そう考えているのですが、万が一、それが起こってしまったとすると、その影響が凄まじすぎると思います。そういった万が一に備えておきたいという富裕層の方は多いようです。
不安な方やそういったリスクに備えたいという方は、今回の実例のようなリスク分散をして、リスクマネジメントを徹底しようという方が多いようです。
富裕層の方だとやはり「安心して投資したい」という方が多いので、このように備える方も一定数いらっしゃるということで参考にしていただければと思います。
当社ウェルス・パートナーは富裕層の方の資産運用をサポートしています。
リスク分散重視の資産運用やアメリカ以外への分散投資などをご検討中の方は、ぜひ当社へご相談ください。

株式会社ウェルス・パートナー
代表取締役 世古口 俊介
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。
2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者1万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
メディア掲載情報:「m3.com」「ZUU online」「MONEY zine」「マネー現代」でコラムを連載中