1.はじめに
ここ数ヶ月間の間は株式市場へリスクオンする流れが強く、アメリカをはじめとする利上げ懸念により先進国の債券市場は資金流出超でした。しかし、多くの先進国で債券市場を動かす要素は出てきており、需給にも改善の見通しが出ています。本コンテンツでは先進国のうち日本・アメリカ・ユーロ圏に絞って現状のファンダメンタルズに基づいた今後の債券市場の動きの見通しについて述べます。
2.日本
日本銀行は7月の政策決定会合で、「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」というフォワードガイダンスを導入しました。以降、10年国債利回りは0.1パーセントを挟んだボックス圏内で推移しています。
日本は2019年に消費税引き上げを予定しており、その中で物価上昇率は低迷を続けている現状を踏まえ、多くの市場参加者は日本銀行が現行の量的・質的金融緩和政策の変更に動くことはしばらく無いだろうと判断していることを示唆しています。
長引く低金利が銀行の経営に深刻なダメージを与え、それが金融システムの不安化につながるというステージにはまだ達していないことも日本銀行は現状維持の政策を推進するであろうと予測する根拠の一つです。
さらに日本国債は海外の債券市場の影響を受けにくい性質があることもあり、当面の10年国債利回りは0.1パーセントを挟んだ動きになるものと考えられます。
3.アメリカ
アメリカ経済は、主に好調な雇用や消費の伸びとエネルギー部門の清算設備等投資拡大に下支えされ、引き続き堅調に推移していくと考えられます。
また、食品とエネルギーを除いたコア・インフレ率は主に住宅価格の伸び鈍化に伴い2パーセントを切る水準となることが予想されますが、これは昨今の物価上昇率の伸びを考慮すると健全な動きであり、米連邦準備制度理事会(FRB)が目指している数値にも合致しています。
最大の懸念材料は、米中貿易戦争です。これが政治や金融市場のボラティリティを高めるまでにエスカレートした場合、資金がアメリカ国債に流れることが容易に想像できますので、アメリカ国債は利回り低下の動きになると考えられます。
また、需給面ではアメリカの利上げによるヘッジコストの上昇とFRBがアメリカ国債の購入を減少させている動きにより、アメリカ国外の投資家からの需要が低下しつつあることにも留意しておく必要があります。
4.ユーロ圏
2018年9月の欧州中央銀行(ECB)理事会で、2018年と2019年のユーロ圏内の成長予測およびコア・インフレ予測は若干の下方修正が為されました。
一方でドラギECB総裁は引き続きユーロ圏内のマクロ経済の見通しにポジティブであり、ECBのバランスシート縮小にも急進的なスタンスは見せていません。ユーロ圏は確かにいくつかの指標で下方修正が為されたものの、景気は力強くファンダメンタルズやバリュエーションも良好なことから、ドラギECB総裁は必要以上に弱気とは言えないでしょう。
依然としてユーロ圏のファンダメンタルズは各国によりバラつきがあり、政情不安を要因にイタリア国債の利回りが低下する一方で、ドイツ国債の利回りは上昇しています。
また、ブレグジットなど政治的な不確実性も存在しますが、ユーロ圏内で総論すると景気の力強い回復傾向・新興国リスクの低下・割安感から、長期金利の上昇が主導する長短金利差の拡大が予想されます。ここが、投資のタイミングになるでしょう。
6.まとめ
先進国のファンダメンタルズの見通しは概ね堅調であり、今後は特にユーロ圏の国債・投資適格社債を中心に需給は改善し、リターンも安定的になるものと考えられます。
アメリカ国債の発行は長期債が中心になると思われますが、それがただちに需給悪化につながるとは考えにくいでしょう。よって、先進国債券への投資は年末に向けウェイトを高めることも一案かと考えられます。