2021
09/01
経済・マーケット

はじめに

米国では新型コロナワクチンが普及し、経済正常化への期待が高まっています。しかし、景気がよくなるとFRB(米連邦準備理事会)は大規模な金融緩和を縮小し、利上げを行う可能性があります。

この記事では、FRBが金融緩和を縮小するとどうなるのか、そして物価が上昇するインフレ懸念が高まると株式市場はどうなるのかについて解説します。

インフレ加速に警戒感を強めた5月の米国株式市場

月12日に発表された4月のCPI(消費者物価指数)が、前年同月比4.2%上昇と市場予想の3.6%を大幅に上回ったことから、マーケットではインフレ懸念が高まりました。そして、米10年債利回りは1.689%まで上昇し、株式市場では低金利の環境で買われていたハイテク株中心に売られました。

世界の主要株価指数も軒並み下落し、投資家心理が冷え込みました。そして、物価連動国債から求められる今後10年間の予想インフレは年率2.56%となり、約8年ぶりの高値となったのです。

CPIの上昇率が4%を超えると予想していたマーケット関係者はほとんどいませんでした。2020年4月は、コロナ禍で全米の多くの地域で都市封鎖がおこなわれたため、反動で3%台と高い上昇率の予想でしたが、その数値も上回ったのです。

FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は「インフレは一時的」と繰り返しています。コロナ禍で失われた雇用の回復が遅れているので供給力不足が起きているからです。そして、物価上昇は金融政策の運営に影響しないと説明してきました。

しかし、米国や欧州を中心に需要が回復している一方、日本や台湾などは新型コロナウイルス感染拡大により経済活動が停滞しています。世界の製造業を支えるアジアでの新型コロナウイルス感染拡大は、世界の製造業のサプライチェーンに大きな打撃を与え、半導体価格を中心に更なる物価上昇を招く恐れがあるのです。

2つのインフレ指標

インフレを測る経済指標として、「CPI(消費者物価指数)」と「PCE(個人消費支出)デフレーター」があります。そして、FRBがインフレ指標として参考にしているのが、後者の「PCEデフレーター」です。それぞれの指標について解説します。

CPIとは

CPIとは、米国内の物価の上昇や下落などの変動を表す経済指標で、米労働省が毎月中旬に公表しています。食料品や医療など約200項目の価格の変化を調査して指数化したもので、米国民の生活水準を示す指標の一つとなっているのです。また、消費者が購入するサービスやモノなどの物価の動きを把握する指標なので、インフレ率を分析するための重要指標としてマーケット関係者から注目されています。

PCEデフレーターとは

米商務省が毎月末に発表している個人消費全体から算出される指標です。個人消費支出のデフレーターで、名目PCEを実質PCEで割ります。PCEデフレーターから価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「PCEコアデフレーター」といい、FRBが最も重視している物価指標として知られています。

消費者物価指数は、PCEデフレーターよりも速報性が高いという特徴があります。一方、PCEデフレーターの方は調査対象が広いので、物価動向の実際を反映しているとされているのです。

FRBは2023年に2回の利上げ示唆

6月に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、2023年度中にゼロ金利を解除する方針が示されました。米経済の回復による物価上昇率の加速を受け、これまで2024年以降としていた利上げの想定時期を前倒ししたのです。ただ、足元の物価上昇の加速は一時的との見方を変えていません。そして、雇用の回復を確実にするため、金融緩和を粘り強く続ける姿勢を改めて示しました。

6月の会合では地区連銀総裁や正副議長など、参加者18人がそれぞれ政策の中期的な見通しを提示。2021年・22年ともにゼロ金利を維持する方針が中央値になりましたが、2023年の利上げを見込んだ参加者は13人になりました。

前回の3月では7人だったので、大幅に増えたのです。金利見通しの中央値から見ると、2023年は0.25%の利上げが2回あると示唆されています。2022年中の利上げを見込んだ参加者も、3月の4人から7人に増えました。

ただ、FOMCでは現状のゼロ金利政策の維持を決め、短期金利の指標であるFF金利(フェデラルファンド金利)の誘導目標を0~0.25%に据え置きました。2020年3月に再開した量的緩和政策も維持し、当面は住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル、米国債を月800億ドルのペースで購入します。これは、投票権を持つパウエルFRB議長ら11人の全会一致で決めています。

今後の注目点

5月に発表されたCPIでインフレが加速されていることが示され、6月のFOMCではテーパリング(金融緩和の縮小)の議論を始めることがわかりました。これまでのようなハト派一色のFRBではなく、タカ派的な意見も増えてきているのです。

しかし、パウエル FRB 議長が慎重な言い回しを続けていることから、株式市場の下落は一時的なもので収まり、その後、S&P500種株価指数やナスダック総合株価指数は史上最高値を更新しています。

ただ、米景気が過熱し、インフレリスクが高まる懸念は続いています。インフレリスクがさらに高まれば、長期金利の上昇などを通じ、金融緩和の終了時期が前倒しになる可能性もあるのです。今後もCPIやPCEデフレーターなどの経済指標や、長期金利の動向には注意が必要です。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者14万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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