2020
08/06
経済・マーケット

はじめに

新型コロナウイルス対策への大幅な支出を受け、国の財政は悪化しています。今後、景気が悪化して法人税や所得税の減少が見込まれる中、東日本大震災の時の「復興特別税」のような増税はあるのでしょうか。現在の状況や今後の見通しについて解説します。

2019年度の税収は減少

財務省が発表した2019年度の国の一般会計税収は、前年度から1.9兆円減の58兆4,415億円となりました。新型コロナウイルス収束のメドが立たないので、経済の回復が見通せない中、今年度の税収はさらなる大幅な落ち込みが確実な状況です。

前年より税収が減るのは3年ぶり。2018年度は60兆3,564億円でバブル期を越え、28年ぶりの過去最高を更新していました。

政府は2019年度の税収について、当初消費税増税などの効果を見込み、過去最高の62.5兆円と見積もっていました。

しかし、昨年末に米中貿易摩擦による経済環境の悪化を織り込み60.2兆円に修正。

新型コロナウイルスの影響で、今年はさらに1.7兆円下振れした形になったのです。企業の資金繰りを支援するため、事業者の納税を1年間猶予する措置を取っている影響も出ました。

財政悪化でも国の危機感はない

新型コロナウイルス対策による大幅な支出を受け、国の財政も大幅に悪化しています。「100年に1度」ともいわれる経済危機への対応で積極的な財政出動は必要ですが、政府の財政危機への欠如も見られます。日本国債の格付け見通しを下げる動きも出てきており、新型コロナウイルス収束後の財政健全化へのハードルは一段と高くなっているのです。

2020年度の一般会計歳出は、1次補正で25.7兆円、2次補正で31.9兆円が加わったことで、160.3兆円まで積み上がりました。当初の予算102.7兆円から大きく跳ね上がったことで、これまで減少傾向だった国のPB(基礎的財政収支)の赤字額は、9.2兆円から66.1兆円まで急拡大しています。

政府は国と地方あわせ2025年度に基礎的財政収支を黒字化する見通しですが、現実的にはほぼ可能だと見られているのです。

2020年度の税収も大幅下方修正か

2019年度の税収(2019年4月~2020年3月)の場合、新型コロナウイルスの影響が出ているのは2月以降の2ヶ月程度に過ぎません。深刻になるのは2020年度以降の税収です。政府は2020年度の税収について、過去最高の63兆5,130億円を見込んでいますが、大幅な下方修正は避けられないでしょう。法人税や所得税が大幅に減る恐れがあるからです。

今年度の歳出総額は、巨額な補正予算を組んだことで、すでに過去最大の160兆円超に上っており、90.2兆円の国債を新たに発行して賄います。ただ、今後も新型コロナウイルスの影響で経済が停滞して税収への悪影響が強まれば、借金に依存した財政運営に拍車がかかることは間違いないでしょう。

コロナ増税の可能性

大幅な税収減が見込まれる中、今後は増税により国民が返済する必要も出てくるかもしれません。東日本大震災のときも「復興特別税」があったからです。

復興特別税は、震災後に所得税が2.1パーセント上乗せされ、その期間は25年間。住民税も1,000円上乗せで10年間。法人税は10%上乗せで2年間。これらの増税で総額10.5兆円の税収増になりました。

今回の新型コロナウイルスによる予算規模は60兆円ほどなので、さらに大規模な増税になる可能性があります。現在も東日本大震災の復興税の支払いが続いている中、「コロナ増税」が上積みされる可能性もあるのです。

震災復興税の時は低所得者に課税されなかったので、コロナ増税ができたとしても同じような措置が取られる可能性はあります。ただし世帯年収が700~1000万円ぐらいの中所得層には相当の負担になる可能性があります。

2020年から年収850万円超の会社員は所得税が増税になりました。給料に対して適用される給与所得控除が縮小されたからです。さらに2021年には、年収850万円超の会社員は住民税も増税になります。

このように中所得者層の税負担が増す中、コロナ復興税が加算されると、消費などに大きな影響がでてくることでしょう。

東日本大震災と新型コロナウイルスの違い

ただし、新型コロナウイルスは東日本大震災の時と状況が異なるともいえます。震災復興税は「東北地方応援する」という大義名分があったので、国民の支持を得られやすいという背景がありました。

しかし新型コロナウイルスは、日本全国に感染が拡大して全国民が被害を受ける中、増税といわれてもなかなか受け入れられないのではないでしょうか。新型コロナウイルス対策は自分たちの納める税金が原資ともいえ、それを返済する必要があるのかという疑問が出てくるからです。

根本的な見直しを迫られるアベノミクス

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えながら経済を回復させ、財政を持続可能な状況に戻していくことが政府の大きな役割になります。ただ2019年度のGDP(国内総生産)に対する債務残高の割合は237.4パーセント。

米国の109%やドイツの59.8%などを大きく上回り、先進国の中では最悪の水準です。コロナ禍の前から財政悪化が続く日本にとって、財政出動の余地は限られているのです。日本の国債残高は2020年度末に964兆円になる見込みで、1,000兆円の大台が迫っています。

米国格付け大手のS&Pグローバル・レーティングは、6月9日に日本国債の格付け見通しを下方修正しました。現在は、日銀が買い入れしているので国債価格の急落を免れていますが、国債の信認低下を懸念する声が大きくなっています。

経済成長による税収増で財政再建を進めるという掛け声により、財政健全化を後回しにしたアベノミクスも根本的な見直しを迫られているのです。

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者3万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

<ご注意事項>

  • 当社の所属金融商品取引業者等は株式会社SBI証券、東海東京証券株式会社、エアーズシー証券株式会社です。
  • 当社は所属金融商品取引業者等の代理権は有しません。
  • 当社はいかなる名目によるかを問わず、その行う金融商品仲介業に関して、お客様から金銭および有価証券のお預かりを行いません。
  • 各商品等へのご投資には、商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります。各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等及びリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示又は契約締結前交付書面等をご確認ください。

[金融商品仲介業者]

商号等:株式会社ウェルス・パートナー

登録番号:関東財務局長(金仲)第810号

[所属金融商品取引業者]

商号等:株式会社SBI証券

金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第44号、商品先物取引業者

加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本STO協会、日本商品先物取引協会

商号等:東海東京証券株式会社

金融商品取引業者 登録番号:東海財務局長(金商)第140号

加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人日本STO協会

商号等:エアーズシー証券株式会社

金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第33号

加入協会:日本証券業協会

ご相談はこちらから
お名前*
お名前カナ*
メールアドレス*
電話番号*
第一希望日*
ご希望のお時間*
第二希望日*
ご希望のお時間*
面談場所*
ご相談を希望するアドバイザー
当日は代表の世古口が同席する場合がございます。
大まかな保有資産額を教えてください。*
ご年収を教えてください
当社を知ったきっかけ*
ご相談内容
利用規約*
上記でご入力いただいた内容は、当社からの連絡や情報提供などに利用するためのもので、それ以外の目的では使用いたしません。
また、その情報は、当社以外の第三者が利用することはございません。(法令などにより開示を求められた場合を除きます)
詳しくは、個人情報規約をご覧ください。
https://wealth-partner-re.com/policy/