はじめに
米株市場は3月後半以降に急速に水準を回復したが、年初来でセクター別に見ると、IT セクターがプラス圏まで回復し相場全体を牽引する一方で、銀行株は▲43%の下落と、原油価格低迷で苦しむエネルギーセクター(▲40%)を下回っています。
銀行株は景気後退時にアンダーパフォームする傾向にありますが、足元の株価動向は、市場参加者の景気への警戒的な見方を反映していると考えられます。
株式市場全体の今後の上値を探る上でも重要となる、米銀行株の状況と当面の株価動向について考えてみたいとおもいます。
1.クレジットコストの増加が当面の業績を大きく圧迫する見込み
1-3 月期決算は主にクレジットコスト増により、最大手行のJP モルガンが前年比▲70%の減益となるなど、大幅減益となりました。
実際に発生した貸倒損失は3月末時点で大きな増加が見られなかった一方で、将来予見される損失に対応した貸倒引当金を大幅に積み増したことが減益の主因です。
貸倒引当金については、将来想定される信用損失を前倒しで計上する新会計ルールが今決算より導入されています。これは、①各行独自に将来経済シナリオの想定を置き、②将来生じうる信用損失額をモデルで算出、③算出額に応じた貸倒引当金を引き当てる、というものです。
今決算では、新型コロナの影響によりリセッションを想定した経済シナリオを各行が設定したことで、大幅な引当金の増加に繋がりました。
今後については、各行が想定する経済シナリオに更なる下振れ余地があると考えるため、クレジットコストの増加が継続すると見ています。
例として、JP モルガンの3月末時点の想定シナリオは「4-6 月期に米GDP が前年比▲25%、失業率は10%超で推移しますが、年後半は堅調に経済が回復する」というものですが、足元の経済動向と比べて楽観的に映るとの見方が、銀行株の投資家から挙がっています。
2.大手行の減配はベースシナリオでは無いが金融当局の動きに注意
一方で、大手行の資本の状況は全般的に健全と言えます。大手行のレバレッジは、金融危機以降の規制強化とストレステストの実施により抑制された水準となっており、自己資本比率は、規制上求められる必要最低水準を十分上回る水準となっています。
株主還元については、大手行は自社株買いを当面停止する一方で、配当は継続する姿勢を見せています(今決算では小規模な数行だけが減配を発表)。
一方で、金融当局が株主還元に規制を課す動きには注目したいところです。欧州では資本保全のため金融当局が配当停止を銀行へ命じていますが、米国では対照的に、パウエルFRB 議長が米銀の資本バッファーが十分であることを理由に配当を認める意向を4月に示しています。
但し足元では、クオールズFRB 副議長等の米金融当局者の間で配当継続の是非が引き
続き議論されている状況であり、経済状況が悪化するにつれて、配当停止リスクが市場参加者から意識されやすくなるでしょう。
3.米銀行株は上値の重い展開を予想
短期的な銀行株の見通しとしては全体の相場動向次第で上下しうるものの、クレジットコストに対する懸念、景気下振れ時の減配リスク等が意識され、暫くは上値の重い展開が継続しやすいと考えています。
4.まとめ
この状況は、日本でも同様です。日本国内でも景気減速が顕在化しつつあります。
外出自粛で生活必需品を除いた消費は急減しました。訪日外国人の需要縮小も重なり、サービス業を中心に危機感は強まっています。雇用・所得環境が悪化すれば、住宅ローンなど個人に関わる与信費用も増えかねません。
したがって、銀行株への投資はしばらく様子見でもよいのではないでしょうか。