リーマンショック以降、銀行にとっては厳しい低金利の時代が続いています。
2016年以降の連邦準備制度理事会による段階的な利上げで2019年中に3%程度まで利上げがされることが予想されていました。しかし、現実には新型コロナウイルスによるリセッションの懸念で利下げが行われ、ゼロ金利政策がとられています。
銀行の基本的な利益は、預金金利と貸出金利の差によって生まれます。そのため、貸出金利の目安となる長期金利が下落すると、かなり厳しい状況に置かれるのです。貸付の他にも、銀行は長期債への投資で利益を上げていますので、長期債の利回りが低くなるというのは死活問題です。
そのため、アメリカの長期金利が1%を下回るという異常事態の中で自社株買いをしばらく停止することを発表した銀行セクターは市場平均を上回る大きな下げ幅となっています。
1.銀行業界の健全性
しかし、今回の銀行株の下落は、サブプライム住宅ローンを発端とする金融危機が引き金ではありません。リーマンショック後に行われた金融機関への規制などにより、銀行はより強固な企業となり、金融システムは極めて健全です。FRB(連邦準備制度理事会)によるストレステストにも合格し、これまで増配と自社株買いを続けてきました。
株式相場の下落は時に恐ろしい株価を示すことがありますが、現在の金利・株式市場の下落は10年前のような金融システムの崩壊によるものではないことを冷静に意識してみるべきです。
銀行は、リーマンショックの際に大きな打撃を受けました。しかし、現在の新型コロナウイルスの大流行においては、以前に比べてはるかに健全な状態にあります。
2.バフェットの銀行業界に対する見方
5月2日に行われたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会において、ウォーレン・バフェットは銀行部門に関して以下のように述べました。
「彼らは、2008年にはサブプライムローンの仕組み債の組成など、銀行として行ってはいけないことをしていました。そして、いくつかの銀行は現在とはかけはなれて悪い財政状態にありました。しかし、現在の状況下において金融システムは健全に機能しており、銀行業界に特段の問題はありません」
89歳の同氏はまた以下のように付け加えました。
「銀行は非常に良い状態にあると思います。銀行は十分な資本を積んでおり、強固なバランスシートを構築しています。」
リーマンショックの後、議会はドッド・フランク法を可決しました。これにより、銀行はより多くの資本を積み上げる必要に迫られました。それにより、景気後退時に貸付の損失を容易に吸収することができるようになったのです。
たとえば米国のすべての銀行は、リーマンショック前の2006年第3四半期の時点では、ティア1資本比率が約10.7%でした。しかし、2019年の終わりにはこの比率は13.29%に増加しました。
それでもバフェットは、経済状況が悪化し続けると、銀行も打撃を受ける可能性があることを認め、以下のように述べました。
「経済状況が悪化し続けた場合、銀行に多くの負担がかかる可能性があります。これらについては注意が必要です」
JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴなどのバフェットの投資ポートフォリオに含まれる銀行は、第1四半期に数十億ドルの資金を確保し、景気後退に備えています。
「銀行はエネルギー関連会社に対する貸付に問題を抱えるでしょう。そして、銀行は消費者に対する貸付に対して問題を抱えるでしょう。しかし、彼らはそれを認識しており、そのために十分な資本を積んでいます」とバフェットは述べています。
さらに彼は「銀行業界については、私はそんなに心配していない」と付け加えました。
3.まとめ
しかし、バフェットの見方は楽観的かもしれません。バフェットは銀行株を大量に保有しているため、市場を安心させるためのポジショントークの可能性もあります。
現に、米国の個人消費を支えるクレジットカードの返済延滞は急増しています。それは、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用情勢が一気に悪化したためであり、米カード大手の不良債権比率は約6年半ぶりの水準となっています。多くの州で経済再開の動きが出てきていますが、限度額の引き下げで消費意欲にブレーキがかかれば、国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費の回復が遅れる可能性もあります。
バンク・オブ・アメリカのポール・ドノフリオ最高財務責任者(CFO)は、個人ローン環境の急激な悪化を嘆き、以下のように述べています。
「支払い延期要請は100万件に積み上がっています。その8割がクレジットカードです」
個人向けローンの比率が高い銀行の株価は急落しています。しかし、サブプライムローンの危機を乗り越えた米銀行業界が破綻する可能性は低いでしょう。
今こそ米銀行業界に対する投資のチャンスかもしれません。