2020
04/06
最終更新日:2020/04/07
経済・マーケット

はじめに

昨年の大晦日から徐々に拡大を見せる新型コロナウイルスの感染ですが、中国経済には影響が出るのでしょうか。

2月12日、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、新型肺炎から「中国経済は早期回復する」との見解を示しました。

一方で、米国の大手投資銀行の専門家たちは中国経済の減速を懸念しています。

そもそも、中国経済はリーマンショック以降から始まる非金融企業の債務膨張が金融危機の発端になる可能性が高いと危惧されており、そのような状況下での新型肺炎による経済の一時的な減速は、システミックリスクを顕在化させる恐れがあります。

そこで今回は中国経済の減速について知るために「中国非金融企業の高い不良債権比率」や「中国金融企業の現状」を解説していきます。

中国非金融企業の高い不良債権比率

みなさんは1990年頃の日本におけるバブル崩壊がどのような状況であったのかご存知でしょうか。

一般的に、経済の急成長は生産年齢人口の高まりとともに訪れ、その際に金融システムは緩和的になり、回収不能な債権が多発することがあります。

日本におけるバブル崩壊はまさに、不良債権比率の高まりが起こり、一部の企業から債務の返済が滞るとそこから返済不能の債権が広がっていきました。

現在の中国ではバブル崩壊時の日本経済と同様の構造的問題を抱えており、非金融企業の不良債権比率が急増しています。

図1では、日本における非金融企業の不良債権比率と中国におけるそれを示したグラフです。

中国では現在、バブル崩壊の直前ともいえるところまで債務が膨張しているのです。

ちなみに、この中国の不良債権比率の高まりは2008年のリーマンショックから始まりました。

リーマンショックでは世界的に景気が減速し、中には政府の支援なしに存続できない企業も多数存在しました。

そのような当時の経済状況の中、中国政府は「約4兆元の財政政策」を実施したのです。

財政政策による多額の資金は国内経済活性化のための公共事業投資などに充てられましたが、その一方で国有企業にも大量の資金が流れていったのです。

そこで、国有企業の一部では、財政支援として受け取った資金をシャドーバンキング市場を通じて収益性の低い企業に高金利で貸し付けていたのです。

そして、収益性の低い企業は調達した資金から利益を生むことはできず、返済が焦げ付き、結果的に政府が財政出動した資金は不良債権と化したのです。

また、政府がシャドーバンキング市場を規制するも、その後形を変えて国有企業は同様の動きをしています。

そして2019年5月、民間銀行の包商銀行が国有化されたとの報道があり、一部の専門家は包商銀行の不良債権比率が高まったことが背景にあるとみています。

このように、中国では2008年から続く非金融企業の債務膨張が金融危機を生む水準まで到達しており、早期の債務調整を求める識者も多く表れています。

中国金融企業の現状

上述したように中国非金融企業の不良債権比率の高まりは、金融企業(包商銀行)まで波及しており、金融システムまでも脆弱性をはらんでいる状況になっています。

さらに、中国経済は2019年9月時点で実質GDPが6%まで低下しています。

この状況で現在の新型肺炎は活気のある中小企業の業績を伸び悩ませ、新型肺炎の感染が長期化すればローンの貸し倒れが相次ぐことも懸念されています。

そこで、中国政府は新型コロナウイルス対策のため通称「新型ウイルス債」を発行し、140億元が調達される見込みとなっています(ロイター分析)。

しかし、新型コロナウイルス対策のための財政出動は名目であり、140億元の内実際に新型コロナウイルス対策に使われるのは約3分の1のみで、多くは銀行債務の返済に充てるために実質「借り換え」のための調達になっているそうです。

中国政府は民間企業が借り換えのために新型コロナウイルス債を利用するかどうか想定していたのかは分かりませんが、仮にこの財政出動がなければ多くの銀行債務が貸し倒れ、すでに脆弱性を持っている銀行も打撃を受けることになっていました。

このように考えると、中国国内では銀行の財務体質の弱さや、経済全体の減速を把握しており、今回の新型肺炎が金融危機の引き金になる可能性を懸念していたのかもしれません。

まとめ

上述の通り、中国の金融システム・経済は大きなリスクを持っており、そのことを政府も把握しているように思えます。

しかし、中国の金融企業は破綻しそうになると包商銀行のように国有化されることが多く、また、国有企業は政府がいつでも財政支援してくれるという「暗黙の保証」をもとに経営を行っていることが専門家から指摘されています。

しかし、収益性のないゾンビ企業は多発しており、すでに膨れ上がった債務は金融危機を引き起こす水準まで来ています。

中国は今、新型肺炎という一時的な経済へのダメージを緩和しているだけで、より根本的なファンダメンタルは崩れかけているのかもしれません。

参考
中国非金融企業の不良債権 BIS
https://www.bis.org/statistics/totcredit.htm
中国GDP The World Bank
https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=CN
参考記事
IMF専務理事発言
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-02-12/Q5LXCFDWX2PS01
中国の銀行システム懸念
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-02-10/Q5GGJDDWRGGA01
新型ウイルス債
https://jp.reuters.com/article/china-health-virusbond-idJPKBN208055

本記事の著者

世古口俊介
世古口俊介 代表取締役
プロフィール
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。超富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者3万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」での情報発信を通じて日本人の資産形成に貢献。医師向けサイトm3.comのDoctors LIFESTYLEマネー部門の連載ランキング人気1位。
当社での役割
超富裕層顧客の資産配分と税務の最適化提案。
特に上場会社創業者の複雑な相続対策や優良未上場企業の組織再編に注力。
同社の代表として書籍の出版や日本経済新聞、週刊東洋経済、ZUUonlineなど各種メディアへの寄稿、投資教育普及のために子供向けの投資ワークショップなどを開催。

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