目次
- 1 はじめに
- 2 ESG投資とは
- 3 ESG投資の拡大
- 4 ESG投資の種類
- 4.1 1.ネガティブスクリーニング(Negative/exclusionary screening)
- 4.2 2.ポジティブスクリーニング(Positive/best-in-class screening)
- 4.3 3.規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
- 4.4 4.サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed investing)
- 4.5 5. ESGインテグレーション型(ESG integration)
- 4.6 6. インパクト投資型(Impact/community investing)
- 4.7 7. エンゲージメント・議決権行使型(Corporate engagement and shareholder action)
- 5 まとめ
はじめに
近年、機関投資家を中心にESG投資が広がっています。ESG投資とは、企業を評価する際に、環境や社会・ガバナンスへの取り組みが適切に行われているかを重視する投資手法です。
この記事にはESG投資が広がっている理由と、投資手法について解説します。
ESG投資とは
ESG投資とは、E(Environment:環境)・S(Social:社会)・G(Governance:ガバナンス)を要素にした投資のことで、年金金基金など大きな資金を運用する機関投資家を中心に広がっています。
これまでのような財務情報だけでなく、企業経営のサステナビリティ(持続可能性)を評価するという概念が広まりました。
そこで、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、国連のSDGs(持続可能な開発目標)とあわせて注目されているのです。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。
持続可能な世界を実現するために、以下のような16のゴール・169のターゲットから構成されています。
出典:外務省
SDGsは発展途上国だけでなく、先進国自身が取り組むべき普遍的(ユニバーサル)なものであり、日本も積極的に取り組んでいます。
ESGという言葉が知られるようになったのは、2006年に国連のアナン事務総長が機関投資家に対し、ESG投資を投資プロセスに組み入れるPRI(投資責任原則)を提唱したことがきっかけです。
2008年のリーマンショック後に、それまでの短期的な利益に追求に対する批判が高まったことからPRI署名機関の増加につながり、2019年3月末時点で2400近い年金基金や運用会社などの機関投資家がPRIに署名しています。
日本でも2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことを受け、ESG投資が広がっているのです。
ESG投資の拡大
国際組織GSIA(世界持続可能投資連合)によると、2018年における世界のESG投資額は約31 兆ドル(約3,400兆円)と16年から34%増加しました。
出典:GSIA
日本の投資額は欧米に次ぐ規模に成長。金額は全体の7%に過ぎないものの、ここ2年の伸び率は4倍増と突出しており、急速に拡大しているのです。
安倍首相が国連の会合でESG投資を後押しする考えを表明するなど、国内でもESGへの関心が高まる中、企業側も対応を迫られています。
ESG投資が伸びている背景には、人口増加や気候変動といった地球規模の課題解決に投資を利用するという考えがあります。2006年にはPRIが定められ、2015年の国連サミットで貧困撲滅などSDGsが採択されています。
企業はESGを意識した経営を行うことで、SDGsに貢献していることを対外的にアピールできるというメリットもあるのです。
ESG投資の種類
GSIAは、ESG投資を以下の7つに分類しています。
1.ネガティブスクリーニング(Negative/exclusionary screening)
1920年代にアメリカのキリスト教系財団から始まった最も歴史の古い手法ですが、現在ではヨーロッパでも広く普及しています。武器やギャンブル・アルコール・たばこなど、倫理的でないと定義される特定セクターの企業を投資先から除外する戦略です。
2.ポジティブスクリーニング(Positive/best-in-class screening)
1990年代に欧州で始まった手法です。業界の中でESG評価が最も高い企業に投資する戦略。ただ、投資できる企業が非常に少なくなるというデメリットがあります。
3.規範に基づくスクリーニング(Norms-based screening)
2000年代に北欧で始まった新しい手法。ESGの基準をクリアしていない企業を投資先リストから除外します。ポジティブスクリーニングに比べ、投資ユニバース(投資先企業リスト)を大きくできるというメリットがあります。
4.サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed investing)
サステナビリティ(持続可能性)を全面的に謳ったファンドに投資します。サステナビリティ関連企業や再生可能エネルギーなどへの投資も行います。また、グリーンボンドや太陽光発電事業の投資ファンドもこのカテゴリーです。
5. ESGインテグレーション型(ESG integration)
財務情報だけでなく非財務情報も含めて分析する戦略で、最も広く普及しつつある手法。とくに年金基金など長期で運用する機関投資家が、企業の事業リスクや競争力などを図る上で積極的に非財務情報を活用し、市場平均よりも大きなリターンを目指すために用いています。
6. インパクト投資型(Impact/community investing)
環境や社会に貢献する技術やサービスを提供する企業に対して投資する手法。比較的小規模の非上場企業への投資が多いので、ベンチャーキャピタルが運用していることもあります。
インパクト投資の中で、支援の手が行き届いていないコミュニティや社会的弱者に対するものは、「コミュニティ投資」と呼ばれています。
株主として、ESGに関する案件を企業に積極的に働きかける手法。株主総会での議決権行使、情報開示などを通じて企業へESGへの配慮を迫ります。このタイプは「物言う株主」や「アクティビスト」とも呼ばれ、日本でも目立つ存在になりつつあります。
続いて、ESG投資ではどの手法が普及しているのかを見ていきましょう。以下の図をご覧ください。
出典:GSIA
2016年から2018年にかけて最も伸びた手法は、サステナビリティテーマ投資型(Sustainability-themed investing)の269%でした。金額が小さいため存在感は小さいものの、グリーンボンドの普及やSDGsファンドの影響が大きかったと考えられます。
また、金額ベースではネガティブスクリーニング(Negative/exclusionary screening)とESGインテグレーション型(ESG integration)が大きく伸びています。
まとめ
今回はESG投資について解説しました。資源の枯渇や気候変動の深刻化により、世界では環境に関する様々な規制が強化されています。また、労働者の人権問題などにも関心が高まっているので、今後もESG投資の普及は進むでしょう。
日本でも2015年にGPIFがPRIに署名したことをきっかけにESG投資は急速に広がってきています。
投資家にとっても、企業がESGに積極的に取り組んでいるかどうかということが、投資リターンを考える上で重要になってきているのです。