はじめに
日本は、韓国向け半導体生産に使う化学物質の輸出管理に関し、安全保障上の懸念から輸出管理に関しての優遇措置を見直し、通常通りの輸出管理を行うこととし、8月28日をもって、新たな政令の発動を行いました。
経済産業省の政令に関する説明文を読めば、特に韓国向け輸出品に関して、従来の優遇措置を廃し、通常の輸出管理体制に戻すということが分かります。
韓国国内では世論を二分し、日本は不当に輸出規制を行い徴用工訴訟の報復措置であるとして、非難を繰り返しています。
WTOの一般理事会においても日本の韓国向け輸出品の規制に関して批判する発言が見られましたが、外務省の伊原純一在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使は、安全保障上の観点から、輸出管理の見直しをしたに過ぎないという従来の日本政府の立場を示しました。
特に、安全保障上の観点は日本国のみならず、東アジア全域、ひいては中東諸国を含めた核保有国に関わる問題ともなっていて、日本政府は韓国経由で第三国に輸出された懸念があることを問題視し、その点も韓国側に説明を求めており、輸出管理の見直しの主因ともなっています。
韓国は、過剰とも思えるような日本製品の不買運動をはじめとした反日姿勢を、官民挙げて行なっている印象を受けます。
反韓感情は?
確かに、日本国内の一部の過激な集団が反韓感情を示すような小規模のデモを行ったりしていますが、メインストリートに日本製品不買運動を推奨する旗を掲げたり、数万単位の日本製品不買運動というものは起きていませんし、メディアもそれらの運動を推奨するような報道はほとんど見られません。
むしろ、韓国国内の過剰とも言える反応を報じながら、冷静に事態の推移を報道しています。
日本国内では、それら韓国メディアの報道内容や、両国政府が発表する公式見解に対し、一定程度の分析を加えながら、過剰な韓国の反応に対して違和感を訴えるSNSでの発信が目立ちます。
一部のメディアは、日本政府の強硬な態度に対し、日韓関係の改善を妨げるものであるとしていますが、経済産業省の発表通り、ホワイト国指定を受けていた韓国を従来の輸出規制に戻すものであり、具体的には、積み替え規制、キャッチオール規制という形でリスト化されており、今回個別の輸出管理に影響を与える品目は韓国向け半導体製造用の三品目の中でも、更にごく僅かの物に限られます。
それらは、経済産業省のHPで、いつでも誰でも確認できるものであり、現在、日本から韓国に輸出されている対象三品目のうち、輸出規制の見直しで個別の審査対象になるのは1%にも満たない量であると言われています。
日韓における隔たり
また、これら経済産業省の方針に対し、7月12日、韓国政府の担当官が経済産業省内において説明を受けました。
これも既に経済産業省が発表している通り、韓国政府が問題視している二国間の政治問題ではなく、輸出管理に関して経済産業省が判断を下したものであり、それは二国間貿易においてどのような意味を持つものか?を表明したに過ぎません。
韓国メディアは意図的としか思えない報道の仕方で、担当官を倉庫のような場所で迎えており二国間協議にそぐわない冷遇だと批判しました。
経済産業省としては、日本国内の問題であり、輸出管理が厳格に行われていないという国際的な評価を防ぐ為にも、つまり日本の国益を損なわないための内政問題であって、韓国がそれに疑義を挟むこと自体がおかしいという立場です。
これは伝聞の域を出ませんが、経済産業省の担当官は本心で、韓国の担当官が説明を求めてきたと思っていた、つまり今回の措置に対して具体的な説明を求めてきたと思っていたところ、韓国の担当官の余りの認識不足に驚いたということです。
つまり、韓国の担当官は真面目にこれを二国間の政治的な問題だと認識していたというのです。
これは、韓国大統領府も韓国政府も韓国メディアも韓国国民も同じ認識なのでしょう。だから、一斉に日本に対し反発をしてきたのです。
しかも、これまで約3年間にわたり、韓国に輸出した半導体製造用原料の中で不明になっている物の調査内容の開示や、北朝鮮を含む核開発が疑われる第三国への輸出の疑いについて韓国側に説明を求めてきたにもかかわらず、韓国側から一切の回答を得られていませんでした。
このことも含め、日本政府としては国内法に則り適切な対応を行なっているだけなのです。
それが、たまたま韓国大法院における徴用工訴訟の個人請求権は喪失していない、という判断と時期を同じくしたに過ぎません。
国際問題に発展するのか
これらの経緯を踏まえた上で、あえて政治問題化することで国際社会に対し、自国の立場を優位にしたい韓国は、だから国際会議の場で、本来、自由貿易であるはずの問題に日本政府が政治介入したのではないか?それは本来、自由貿易上問題があるのではないか?と言っているわけです。
ところが、WTOやRSEP(東アジア地域包括的経済連携:Regional Comprehensive Economic Partnership)、また他の国際会議の場においても、韓国の主張を聞いてくれることはあっても、それを全面的に受け入れ、日本の主張に対して反対意見を述べる国は皆無です。
諸外国は、粛々と進める日本政府の対応に対し、一定程度の理解を得ていると見て間違いは無いでしょう。
まして、韓国政府が決定したGSOMIA(General Security of Military Information Agreement)破棄については、同盟国であるアメリカからも理解に苦しむという見解が出ています。
苦労して締結した日韓のGSOMIAに対する認識の甘さと、親北朝鮮路線を歩む文在寅政権を牽制する発言でもあり、アメリカ政府高官が公式見解として発表している点も、アメリカの韓国に対する不信感の現れと見るべきです。
日本は制裁発動すらしていない
ここで大切なのは、今回の輸出規制の厳格化は、日本の韓国に対する制裁ですらないという事実です。
これまで、半導体関連物質の輸出管理等に関して、安全保障上の懸念という以外に、日本政府は韓国政府に対し具体的な制裁めいたものは発動していません。
政府内から、徴用工訴訟の中身が日韓請求権協定の内容に反している等の発言はありましたが、例えば韓国政府が発表しているような東京オリンピックボイコットだとか、福島県産農産物をオリンピック会場で提供する懸念であるとか、福島第一原発の汚染水を海洋に放出する点について、国際会議の場で懸念を表明するといったことも行なっていません。
つまり、政治問題化しているのは韓国側であることを冷静に見つめる必要があります。
仮に、日本政府が二国間における国際条約を無視した韓国の態度に対し、本気で制裁発動をするなら、それは日本国内にいる30万人以上の在日コリアンの反発を招くという国内事情があったとしても、日韓の国交問題にまで持って行かざるを得ないでしょう。
そうなると、最悪の場合、韓国経済の崩壊と、在日コリアンの特別永住権の剥奪というところまで行きかねません。
もちろん、日本政府がそのような軽々しい判断を下すわけは無いのですが、仮に韓国政府が今以上に親北に舵を切り、竹島問題、拉致被害者問題に実害が出るとなった場合、現在の米中関係とは違う深刻な事態にも踏み込むことになるでしょう。