目次
はじめに
多くの金融資産をもつ富裕層にとって、相続税の納税額がいくらであり、どのような節税対策ができるのか、といった点は気になるところかと思います。
税負担を軽減するためには様々な対策が考えられますが、その一つに財産構成を見直すといった方法があります。本稿では不動産を購入して相続税計算時における財産の評価額を引き下げることにより節税効果を得る考え方についてまとめてみます。
財産の種類による相続税評価額の差異
まず、相続税計算のもとになる課税価格(相続税が課税される財産の評価額)は以下のとおり求められます。
課税価格 = 取得財産額-(債務+葬式費用)+生前贈与加算
すなわち、相続人が相続によって取得した財産の価格から、被相続人の債務や葬式費用を控除して、相続開始3年以内に被相続人から受けた贈与を「生前贈与加算」として、加えたものが相続税の課税価格となります。
この課税価格がもとになり相続税が計算されますので、当然ながら課税価格が小さくなれば、それだけ相続税額も小さくなります。
上記算式のうち「取得財産額」については、財産の種類により評価の方法が異なります。主な財産の評価額の目安は以下のとおりです。
相続財産の種類によって、通常取引される金額(=時価)と、相続税の計算時に適用される金額(=相続税評価額)の間に差があるものがあります。例えば、現金は時価と相続税評価額が等しいのに対して、土地や建物、ゴルフ会員権などについては、時価と相続税評価額の間に乖離があります。この差を利用することで、相続税の負担をおさえることができるのです。
不動産購入による相続税評価額の引き下げ
前項に挙げた時価と相続税評価額の差を利用した相続税対策として、最も基本的な方法は、現金で不動産を購入することです。以下でポイントを整理してみましょう。
①土地購入による評価引き下げ
居住用宅地や事業用地などの自用地で市街地にあるものについては、路線価方式により相続税評価額を算出します。これにより算出された金額は一般的には、時価の80%程度とされており、これだけで20%程度は課税価格を削減することができます。さらに購入した土地について、いわゆる「小規模宅地等の特例」が適用できれば、節税効果は一層大きくなります。
この特例では、土地の用途によって適用対象面積と減額割合が決まっていますが、例えば購入した土地を賃貸アパートや貸駐車場などの貸付事業用地として利用すると、200㎡までの部分について課税価格に算入する金額を50%減額することができます。但し、この特例については適用要件が非常に複雑であり、検討に際しては専門家に相談するようにして下さい。
②賃貸物件建築による評価額引き下げ
購入した土地に賃貸アパートが建っている場合、土地は自用地ではなく「貸家建付地」として評価されます。貸家建付地の相続税評価額の算出方法は以下のとおりです。
貸家建付地の相続税評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は国税庁が定める割合で30%~90%の範囲で路線価図に記載されています。また借家権割合は通常は30%、賃貸割合については各家屋の独立部分の床面積の合計のうち、課税時期において賃貸に出されている部分の割合であり、全部屋を賃貸している場合は100%となります。
仮に自用地評価額が時価の80%、借地権割合が70%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%とすると、そのときの土地の相続税評価額は時価の63.2%となり、4割近く引き下げることができます。
また、建物については、貸家の場合、以下のとおり評価されます。
貸家の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
固定資産税評価額を時価の60%として、借家権割合と賃貸割合は上記の貸家建付地の例を用いると、建物の相続税評価額は時価の42%となり、6割近く引き下げることができるのです。
不動産購入による相続税対策の留意点
以上のとおり、不動産の購入により相続税の課税価格を大幅に引き下げることができ、大きな節税効果を得ることができます。一方で留意すべき点も多く、慎重な検討が必要です。例えば、不動産の購入により資産の流動性が低下するため、相続人の納税資金が不足しないよう考慮しておくことが大前提となります。
また、借入により賃貸アパートを建てる場合は、継続的な賃貸需要が見込める地域に位置しており賃料水準が維持できるか、長期的な収支計画はどうなるのかなどを十分に検討しておく必要があります。
複数のシナリオに基づくシミュレーションにより、長期にわたって空室が生じた場合にも、借入金を返済するためのキャッシュフローが不足しないような長期計画をまとめておく必要があるでしょう。以上のような点を総合的に勘案したうえで、ご自身の資産状況を踏まえて慎重かつ無理のないかたちで節税対策を進めることが重要になります。