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はじめに
日本経済新聞が全国105行の地方銀行に調査をしたところ、今後アパート融資に積極姿勢を示す地方銀行はゼロで、担保評価を保守的に評価するなど融資の厳格化を行う地方銀行は約4割という結果でした。
ここ数年日本銀行の金融緩和政策を背景に、地方銀行ではアパート融資が積極的に行われました。国内全体で約23兆円のアパート融資残高のうち、地方銀行のアパート融資額は52%・約12兆円を占めます。
地方銀行にとっては節税対策を考える土地所有者や副業で収入増を図る会社員は、成長マーケットとしての期待が強く、積極的に融資が行われてきた分野です。ところが、ここにきて日本銀行や金融庁から融資の監視が強化され、風向きが変わりつつあります。
契機となったのは、「かぼちゃの馬車」というブランド名でシェアハウス物件を販売していたスマートデイズ社の不正な融資申し込みと破綻、それに伴い明らかになったスルガ銀行の不適切な融資姿勢です。さらに東証一部上場のアパート施工・管理会社「TATERU」でも預金残高改ざんが発覚し、提携先となっている西京銀行にも調査が行われる可能性がでてきました。
これらの事件の中で明らかになってきていること
①リスク許容度の少ない(自己資金の少ない)会社員などに対する過度の貸付け
②周辺相場と大幅に乖離した売買価格や担保評価
③コンプライアンスを軽視した営業・審査態勢です。
不動産業者が融資審査を通りやすくするために、借り手の年収確認書類や自己資金確認書類の金額を水増しする書類改ざんが横行し、銀行側も融資残高を増やすために、そうした行為を黙認するようになっていました。年収500万円の会社員に1億円のローンがつくというような通常考えにくい融資の話も聞かれた背景には、こうした不正や銀行側の姿勢があったといえます。
アパート経営が成り立たずに売却をしようにも、周辺相場より大幅に高い水準で購入しているため、買い手が付かずローン返済に窮している事例もあります。買い手側も周辺相場より高い物件では収益性や担保評価が出ず、融資が下りないため、買い手が現れません。買い手がいないためまた値段が下がるということになるが、含み損が大きく売却ができないという状況になります。
こうした中で今後リスク許容度の少ないアパート経営者の破綻が懸念され、同時にアパート融資に積極的だった地方銀行の不良債権の増加が懸念されます。
すでに一部では融資申し込みには一定割合の自己資金を条件としているケースもあり、いずれにせよ融資審査は厳格化されております。(厳格化されるのではなく、正常な審査が行われるのですが)。
さて融資の厳格化は今後どのような影響を及ぼすでしょう。
思い出されるのはバブル期の総量規制です。総量規制とは、1990年3月に旧大蔵省銀行局から出された通達で、行き過ぎた不動産価格の高騰を抑制するためのものです。
総量規制の内容は、不動産向け融資の伸び率を貸出残高の伸び以下に抑えるというもので、これにより不動産を担保とした融資が抑えられたため、「買えば上がる」「買うから上がる」といわれた土地価格の高騰は終焉を迎えました。
ご存知のようにバブルを演出したのは過度の担保評価による不動産向け融資でした。総量規制以降、融資が付きにくくなったことで不動産取引は勢いを失い、「売れないから(価格が)下がる」、担保評価が下がり融資が付きにくくなり、買い手が少なくなるので「売れないからもっと下がる」というスパイラルに落ち込み、多額の不良債権を発生させることになりました。
ただし今回は不動産取引のなかでもアパート融資という一部の部分だけですので、不動産取引全体の話や景気全体に影響するという声はまだ聞かれません。アパート融資そのものは問題視されているわけではなく、属性や物件に問題がないものは従来通りに融資が行われるものと思われます。
しかし地方銀行の融資の厳格化や不良債権の増加は地方経済を中心に影響が懸念されることから、一層地銀同士の再編も進む可能性があります。今後の動向から目が離せません。