税務調査も怖くない!資産管理会社で相続税申告時に注意すべきポイント

はじめに

多くの資産を保有する富裕層にとって、相続税対策は避けては通れない重要なテーマです。近年注目を集めているのは、弊社メディアでも何度となく取り上げている「資産管理会社」です。不動産や株式などを法人に移すことで、節税効果や資産の一元管理、さらには相続の円滑化を図る手法は、多くの富裕層に活用されています。しかし、相続税の申告時にこの資産管理会社がかえって“税務調査の火種”となるケースも少なくありません。

特に、取引の実態が伴わない形式的なスキームや、会社と個人の資産が混在している場合などは、税務署から否認されるリスクが高まります。実際に、国税庁の富裕層向け税務調査では、資産管理会社の活用に関する指摘事例が年々増加しており、「正しく使うこと」の重要性が改めて問われています。

本記事では、資産管理会社を活用している、あるいは活用を検討している富裕層の方に、相続税申告時に注意すべき具体的なポイントと、税務調査に備えるための実践的な対策について解説します。

「資産管理会社=リスク」という誤解を払拭し、正しい理解のもとで、資産管理会社を安心して相続対策に活かしていただくためにも、ぜひこの記事をご活用ください。

なぜ資産管理会社が税務調査の対象になりやすいのか

資産管理会社は、富裕層が資産を守り、相続税負担を抑えるための有効な手段として広く知れ渡っています。しかし、その「節税力」の高さゆえに、税務署の視線もまた厳しく向けられがちです。形式上は合法に見えても、運営の実態や取引の合理性に不備があれば、相続税申告の段階で思わぬ否認や追徴課税を受けることがあります。ここでは、その背景と典型的な指摘ポイントを確認します。

理由1)節税スキームとしての注目度の高さ

不動産や有価証券を資産管理会社に移し、資産の集中管理や分散投資を行うことで、税負担を軽減しつつ資産を長期的に守ることが可能です。しかし、その一方で税務署にとっては節税スキームの温床になりやすい形態として注目されやすく、相続税申告時には重点的に調査対象とされる傾向があります。

理由2)「形式と実質の乖離」が狙われる

税務調査で着目される背景の一つに、「形式と実質の乖離」があります。例えば、名義は資産管理会社に移しているものの、実際の使用や意思決定が依然として個人に帰属している場合、形式的な節税とみなされる可能性が高まります。これは、不動産の賃貸収入や株式の配当が法人経由になっていても、実態が伴わなければ仮装や見せかけと判断され、相続税や贈与税の追徴課税を受けるリスクがあるということです。

例えば、次のように否認されたケースがあります。ある会社オーナーは、自身が所有する賃貸不動産を資産管理会社へ移転し、法人経由で家族へ配当を行う形で相続税の節税を図っていました。しかし、物件の賃貸契約を個人が行っており、家賃収入の一部が個人口座に振り込まれていたことが判明。税務署は「実質的には個人所有」と判断し、資産の移転を否認。結果として、相続税と加算税を合わせて数千万円規模の追徴課税となりました。

思わずやってしまいそうな事例ではないでしょうか。このように、形式だけでなく日常の運用実態が伴っていなければ、資産管理会社を使った節税は一瞬で崩れ落ちるリスクがあります。

理由3)富裕層特有の調査リスクと行政の変化

富裕層はそもそも保有資産や取引金額が大きく、税務署から「調査効率が高い対象」として優先的に選定されやすい傾向にあります。国税庁は毎年、重点調査対象として「高額資産を有する納税者」や「複雑な法人スキームを利用している納税者」を掲げており、その中には資産管理会社を活用しているケースが数多く含まれています。

さらに近年の税務行政は、「実態重視」の方向へとシフトしています。かつては書類や形式の整合性が主な確認項目でしたが、現在では取引の経済的合理性や設立目的の正当性まで踏み込んだ調査が行われています。

  • 資産管理会社が実際に経営活動を行っているか
  • 役員会議や株主総会が定期的に開かれているか
  • 収益構造が合理的であるか

こうした運営実態までが細かくチェックされます。

このように、資産管理会社は有効な資産防衛手段である一方、税務署からは「節税目的の法人ではないか」という視点で見られやすい存在なのです。相続税申告時には、会社設立の経緯や運営の実態、取引の合理性について、第三者に説明できるだけの根拠と証拠を整えておくことが重要です。

相続税申告時に問題となりやすい資産管理会社の典型パターン

資産管理会社を活用した相続税対策は、正しく設計すれば大きな効果を発揮します。しかし、その仕組みや運用にわずかな不備があるだけで、税務調査では“危険信号”とみなされ、否認や追徴のリスクが一気に高まります。ここからは、実際の調査現場で指摘されやすい典型的なパターンと、その背景にある税務当局の視点を具体例とともに解説します。

①実態の伴わない名義移転

資産や不動産を法人名義に移しても、実際の使用・意思決定・収益管理が依然として個人ベースで行われている場合、税務署から「形式的移転」と判断されやすくなります。

〈事例〉

A氏は、生前に所有していた都心部の賃貸ビルを資産管理会社へ移転。しかし、賃貸契約の更新交渉や修繕計画の承認を全て本人が行い、家賃収入の一部を個人口座で受け取っていました。結果として、相続税申告時に「実質的には個人所有」と認定され、追徴課税を受けました。

②不自然な役員構成や役員報酬

親族全員を名義上の役員にして高額な報酬を支払う手法は、相続税や所得税の圧縮を狙ったものとみなされる危険があります。特に、役員が実際には業務に関与していない場合はリスクが高まります。

〈事例〉

B家では、大学在学中の長男や海外在住の親族を役員に登録し、それぞれに年1,000万円近い役員報酬を支払っていました。税務調査で業務日誌や会議記録がなく、活動実態も確認できなかったため、「過大役員報酬」として損金不算入処理され、追加の法人税と相続税が課されました。

③過剰な管理委託費や賃料設定

資産管理会社を経由して不動産管理を外部委託する場合、相場を大きく上回る委託費や賃料設定は否認の対象となります。

〈事例〉

C氏は、自身の不動産を資産管理会社へ賃貸し、その後さらに別会社へ高額で又貸しする形を取っていました。税務署は「賃料が市場価格の2倍近くに設定され、実態としては所得移転目的」と判断。結果、賃料差額分が寄附金認定され、税務負担が大幅に増加しました。

④記録・証拠の欠如

形式や数字だけ整えていても、運営の実態を示す証拠(議事録、契約書、銀行取引記録など)がなければ、税務署の指摘に反論できません。

〈事例〉

D家では、資産管理会社の役員会議を「開催した」と申告書に記載していたものの、実際には議事録や出席記録が存在しませんでした。結果、経営実態が否認され、過去3年分の申告を遡って修正する事態になりました。

⑤海外資産や外貨取引の透明性不足

近年、税務当局は海外資産や外貨取引にも目を光らせています。資産管理会社が海外口座を保有している場合、CRS(共通報告基準)によって海外金融機関から情報が自動的に共有されます。申告漏れは高リスクです。

〈事例〉

E氏は、資産管理会社を通じて香港の証券口座で株式運用を行っていましたが、配当収入の一部を日本で申告していませんでした。CRS経由で情報が国税に伝わり、無申告加算税を含む高額な追徴課税を受けました。

これらの典型パターンに共通するのは、「形式と実態の乖離」と「経済的合理性の欠如」です。相続税申告時にトラブルを回避するには、日常的な運営記録の整備と、第三者に説明できるだけの合理性を確保することが不可欠です。

税務調査に備えるための実践的ポイント

税務調査は、申告内容の正確性を確認するためのプロセスですが、その現場では予想外の指摘が飛び出すことも珍しくありません。特に資産管理会社の場合、形式と実態の一致や日常的な運営の透明性が重視されます。ここでは、調査に備えるために押さえておくべき実務的なチェックポイントを解説します。

1. 設立目的と業務実態を一致させる

資産管理会社は「事業を行う法人」という建前で設立されますが、税務調査ではその目的が実際に達成されているかが厳しく見られます。例えば、定款に「不動産賃貸業」と記載しているのに、実際は親族への貸付しか行っていない場合、「事業実態が伴わない」と判断される懸念があります。

【実務ポイント】

  • 定款や事業計画に沿った事業を定期的に実施する
  • 会議記録(取締役会議事録)や稟議書を作成し、意思決定プロセスを残す
  • 設立後も事業内容を見直し、必要に応じて定款変更を行う

国税庁の行為計算否認規定(法人税法132条)でも、形式だけのスキームは否認対象とされています。目的と実態の乖離は「最初に疑われるポイント」であることを意識しましょう。

2. 契約・資金の流れを明確化する

契約書や資金の流れは、税務調査での「事実認定」の根拠になります。個人と法人の資金が混在していると、それだけで「実質的には個人資産」と判断されることがあります。

【実務ポイント】

  • 賃貸借契約、売買契約などは必ず法人名義で締結
  • 収入・支出は全て法人名義の銀行口座で処理
  • 立替払いや口座間の資金移動は明細と理由を記録
  • 領収書や契約書は電子保存も含め、税務署の保存要件を満たす形で保管

資金の流れが不明確な場合、調査官は「隠れた贈与」や「実質個人所有」を疑います。これは特に同族会社で起こりやすい論点です。

3. 適正な時価評価と記録の保持

不動産や非上場株式などの評価は、相続税申告の根幹です。評価額を下げる特例(小規模宅地等の特例など)を使う場合、適用要件を満たしている証拠を残さなければなりません。

【実務ポイント】

  • 評価は国税庁の財産評価基本通達に沿った方法で算定
  • 鑑定書や算定表は必ず保存し、説明可能な状態にする
  • 特例適用時は要件確認書類(居住証明、事業継続証明等)を揃える
  • 評価通達総則6項(著しく不適当な場合の修正評価)の対象とされないよう注意

裁決事例では、「鑑定書はあったが、実際の利用状況と乖離していたため通達6項が適用され、評価額が大幅に引き上げられた」ケースもあります。

4. 関係者間取引の合理性を担保する

親族やグループ会社間の取引は、市場価格から乖離していると「不当に税負担を減少させた」と判断されます。これは資産管理会社を使った相続税対策で非常に多い指摘です。

【実務ポイント】

  • 賃料、売買価格、金利は市場価格や公的データを参照
  • 相場の根拠(不動産業者査定書、金利相場資料など)を保存
  • 社会通念上妥当な契約条件を設定する
  • 取引開始時の経緯をメールや議事録で残す

税務調査官は「誰が得をしているか」に着目します。親族間でのみ有利な条件になっていれば、形式的に契約があっても否認される可能性があります。

5. 定期的な自主点検を行う

資産管理会社は長期的に運営されるため、初期に適法だったスキームでも、時間経過とともに要件を外れてしまうことがあります。

【実務ポイント】

  • 年1回、顧問税理士とスキーム全体の適法性を確認
  • 過去数年分の取引や評価方法を再点検
  • 必要に応じて外部の専門家によるセカンドオピニオンを取得
  • 調査に備えた資料一覧(契約書、議事録、証憑類)を事前に整理

国税庁の調査実績(令和5年事務年度)では、実地調査の84.2%で何らかの非違(法律や規則に違反する行為)が指摘されています。定期的な自主点検は、こうした高い指摘率への唯一の予防策といえます。

資産管理会社の正しい使い方で“調査対象外”を目指す

資産管理会社を適正に運営すれば、調査対象になる確率を下げることができます。ここでは、そのためのポイントを整理します。

ポイント1)「節税ありき」ではなく「事業性ありき」で設計する

資産管理会社の本質は、資産の有効活用と円滑な事業承継です。最初から節税を目的に据えると、税務当局から不自然なスキームとみなされるリスクが高まります。

事業計画を具体的に立て、不動産賃貸や有価証券運用などの収益事業を明確化しましょう。節税効果は、健全な事業運営の結果として得られるもの、と位置づけるのが安全です。

ポイント2)証拠の積み重ねで透明性を確保

調査で最も重視されるのは「客観的証拠」です。契約書、議事録、帳簿、取引記録を整備し、第三者が見ても経緯が分かる状態に保ちます。電子帳簿保存法やインボイス制度に対応した形でデータ保存を行えば、突発的な調査にもスムーズに対応できます。

ポイント3)プロと二人三脚で運営する

税法や通達は頻繁に変わります。顧問税理士や弁護士と定期的に打ち合わせを行い、最新の法令や判例を反映させることが重要です。

資産管理会社は、透明性の高い運営と実態に基づく事業展開を続けることで、「見られて困るところがない会社」を作れます。それこそが、調査対象外を目指すための最も現実的で効果的な方法です。

まとめ

資産管理会社は相続税対策の強力な手段ですが、実態の伴う運営と透明性がなければ税務調査で否認されるリスクがあります。本記事で示したポイントを押さえ、専門家と連携しながら適正な管理を心がけることが、安心できる資産承継の近道です。資産を守り、家族に円滑に引き継ぐために、税務調査にも動じない“盤石な備え”を整えていきましょう。

私たちウェルス・パートナーは、富裕層の方の資産運用をお手伝いしております。資産管理会社設立や資産管理会社を活用した資産運用について検討されている方は、ぜひとも弊社にご相談ください。

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