はじめに
金融緩和策を長い間とってきた日本ですが、4月の日銀総裁交代を控えて金融政策の変更があるかどうかが注目されています。この記事では、2023年の債券市場の見通しと注目ポイントについて解説します。
長期金利の決定要因
債券価格と金利はシーソーの関係にあり、反対方向に動きます。つまり、金利が上昇すると債券価格は下落し、金利が下落すると債券価格は上昇するのです。債券価格の動きを見るには、長期金利の動きを把握することが大切です。
長期金利は様々な要因で決まりますが、最も重要なのは市場参加者の経済成長や物価に対する期待や予想です。企業は設備投資や他社の買収など、長期的な投資のために長期資金を借り入れます。
これらの投資から得られる利益が借入コストを上回ると予想されると、企業は長期資金を借り入れることになります。長期的に高い成長が見込まれる国では、魅力的な投資先が多く、企業の資金調達ニーズが高まり、長期金利の上昇圧力につながるのです。
逆に、高い成長が期待できない国では、魅力的な投資機会が限られるため、企業の資金調達ニーズは高まらず、長期金利は上昇しません。その他の長期金利に影響を与える要因としては、インフレ率や経済成長率、金融政策などがあります。
みずほ総合研究所 「長期金利の決定要因と今後の動向」
金融政策と金利の関係
金融政策とは、中央銀行が経済の通貨供給量と金利をコントロールするために取る行動のことです。日銀や米国のFRBなどの中央銀行は、公開市場操作や準備金の設定など様々な手段を用いて、金利や通貨供給量に影響を与えます。
金利は借り入れや支出に影響を与え、経済成長やインフレに影響を与えるのです。つまり、金融政策が金利に影響を与え、金利の変化がより広い範囲の経済に影響を与える可能性があります。
金融政策の目的は、物価を安定させることです。物価を安定させるために、金融政策は金利を上げたり(利上げ)、下げたり(利下げ)して、景気の過熱や失速を防ごうとするのです。
一般に、中央銀行は景気が過熱すると金利を引き上げます。政策金利が引き上げられると、長期金利が上昇し、各種ローンの金利が高くなる可能性が高まります。そのため、自動車や住宅などを購入するためのローンが組みにくくなり、過剰な消費行動を抑制することができるのです。このように、「利上げ」は消費の伸びを抑え、景気の過熱を抑制することを目的としています。
逆に、景気後退に歯止めがかからないときは、金利を引き下げます。政策金利が引き下げられると、長期金利が低下し、各種ローンの金利に低下圧力がかかるからです。そのため、自動車や住宅などを購入する際にローンを組みやすくなり、消費行動が促進されます。このように、活発な消費行動を喚起し、景気回復を図ることを目的として「金利引き下げ」が実施されるのです。
米国の金融政策
それでは、債券市場に大きな影響がある米国の金融政策から解説します。米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月以降、連続的かつ大幅な利上げ(政策金利の引き上げ)を行ってきました。しかし、2023年にはその利上げが終息に向かう可能性が高まっています。
2023年に入ってから、連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者は、政策金利が5%を超えて終了するとの見通しを相次いで示しているからです。ただし、これは政策金利が当分5%超で推移するとの予想とセットになっています。
ターミナルレート(最終到達点)に達して利上げを停止すると、金融引き締めの効果が実体経済にどの程度影響するか、具体的には賃金や物価の上昇率がどの程度鈍化するか、それと並行して景気や失業率がどの程度悪化するか、最新のデータをもとに「様子見」の段階となるのです。
日本の金融政策
春闘後の賃上げ基調に加え、年度末には日銀の大規模緩和政策の修正や、4月の黒田日銀総裁任期満了を控えた次期総裁人事への関心が高まる中、金利上昇圧力がかかる可能性があります。
しかし、欧米のインフレ率上昇の一服やFRBなど中央銀行の政策転換が意識され、当面は金利の低下圧力がかかり、国内長期金利は0.3%~0.5%の範囲で推移する見込みです。
そして、金利の急上昇はないと考えています。日銀はマイナス金利を解除してもYCC(イールドカーブコントロール)の枠組みは維持し、4月の日銀新総裁就任後も10年物金利の許容変動幅はプラスマイナス0.5%にとどまると予想されるからです。
そして、2023年には国内物価が徐々に落ち着き、日銀の目標である持続可能な物価上昇率2%は達成できない可能性もあります。また、2022年12月の日銀の政策修正が政府の意向に沿ったものであったとしても、政府は資金調達コストが上昇する大幅な金利引き上げを望まないと考えています。
ただ、1月13日の国内債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが急上昇(価格は下落)しました。利回りは一時0.545%に達し、日銀が認める「0.5%程度」の上限を大きく上回ったのです。日銀が金融緩和策の再修正を迫られるとの見方から、債券売りに拍車がかかっています。
10年債利回りが日銀の許容上限である0.5%程度を突破したのは、投資家が売りポジションを形成する傾向が強まったためと思われます。ただ、日銀が金利上昇を抑制する姿勢を示せば、いったん落ち着く可能性は高いでしょう。
日銀は物価動向などを踏まえ、長期・超長期金利の水準が再び上昇すれば、長期金利の上限を再び引き上げる可能性があります。ただ、そのタイミングは、米国の金利低下が一段落する年後半になると見ています。
一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。